第131話 大津原と校長
「ど、同一人物ぅぅ!?」
かりんが声を大にして驚きの言葉を発する。
正直、俺も同じく叫びかけた。
さすがにその推測は想定外すぎるというものだ。
「はい。そもそもの話になりますが……大津原の経歴が不明瞭すぎるのに、学校の司書をしているという点が不自然だと、私は感じるんですよ」
と、そう告げた舞奈に対し、かりんが首を傾げる。
「不自然?」
「はい。ウチの学校は私立ですが……そうだからと言って、学校――教育機関である以上、あからさまに怪しすぎる経歴の人を司書に採用したりするでしょうか? 普通に考えれば、怪しい人間を採用するとは思えないんですよね」
「なるほど……言われてみるとたしかにそうだね。公立と私立とで教員や職員の採用の方法が異なっているとはいえ、どちらも教育機関である事に変わりはないのだから、採用に関してはそれなりにしっかりとした確認を行うはず……。それなのに、怪しい経歴であっても採用しているという事は、採用の決定権を持つ、あるいはそこに口を出せる人物……つまり、校長や理事長などと懇意な間柄の人物か、あるいは――」
「自分自身……って事ね」
舞奈の言葉に合点がいったらしい桜満とかりんが、そんな風に言う。
ふむ……。たしかにこの時点で同一人物である『可能性』が示されたな。
「はい、そういう事です。そしてもうひとつ……先程、校長先生は私たちが学校に乗り込んだのと同じ頃に慌ててどこかへ出ていった……と千代田さんが仰っていましたよね?」
舞奈がそこまで言った所で、俺の中でパズルのピースがカチリと嵌った。
「ああ、そういう事か。――大津原は逃亡を図るべき時に、何故か学校へ行き、その学校には大津原の遺体が残されていた。しかし、そのタイミングで校長が逃走……とくれば……」
舞奈の言わんとしている事を理解し、そんな風に告げると、
「はい。大津原という肉体は今の璃紗さんと同じ仮初の物であり、璃紗さんの魂を仮初の肉体に移したのと同じ方法で、校長先生の肉体に『戻った』と考えられます」
と、頷いて言ってくる舞奈。
「そして、それを行う事が出来るのが……」
「――学校の隠し部屋にあった設備ブルね」
かりんとブルルンがそれぞれそう口にする。
「なるほど……。そう考えると、校長室から行く事の出来る隠し部屋がある事にも納得出来るよ。校長室から隠し部屋を経由すれば、あの封鎖されている区画――4階や5階にも自由に立ち入れるわけだからね」
顎に手を当てながら、そう紡ぐ桜満の言葉に続く形で、
「ふむ……。そしてさらに、スケープゴートとなる『大津原』という存在を用意しておけば、何かあった時に『大津原』を死体にして目をそちらに向けるなり、全てを押し付けるなりして校長自身をカモフラージュし、速やかに逃げおおせる事が出来る……と言うわけだな。まさに今の状況のように」
と言って、肩をすくめる俺。
「……校長も実は仮初の存在――囮とかじゃないわよね……?」
「さすがにそれはない……と思いますが……。う、うーん……」
かりんの言葉を完全に否定しきれないらしい舞奈が、歯切れ悪くそう返しながら、桜満の方を見る。
「――大津原と違って校長の経歴はしっかりしているから、あれも実は仮初の存在でした、なんていう可能性は限りなく低いと思うよ」
「だとしたら、校長の行方さえ見つければ、今回の一件はケリがつけられそうだな」
「そうだね。すぐに大津原の捜索に回していた人員全てを校長の捜索に回して、さらに各所にも協力を要請するから、数日以内には見つけ出せるはずだよ」
桜満は俺の言葉に頷いてそう答えると、ズボンのポケットからスマホを取り出し、連絡を取り始める。
……舞奈とかりんの、大津原との偶然の遭遇から短時間の内に色々あった……というか、正直ありすぎたが、どうにかこうにか一旦の決着が見えてきたな……
まあもっとも、舞奈や千堂璃紗の肉体をどうにかしないといけなかったり、そもそもあんな設備や技術をどうやって会得したのかといった部分は、まったく解決していないから、決着がついてもまだやるべき事はあるんだが……な。
なんというか、大分説明ばかりになってしまいました……もう少し簡略化したかったのですが、どうにも上手くいかず…… orz
ま、まあ……そんなこんなでまた次回! 次の更新は、いつもどおりの間隔に戻りまして、3月13日(日)を予定しています!




