第129話 降魔と降魔と退魔
「う、うーん……まあベースの魔法に、別の魔法を大量に追加しているという点でいえば、そういう事になる……か?」
舞奈の妙な例えに対して、俺が唸りながら首をひねっていると、
「舞奈の例えはさておき……あの魔法は『降魔』の術みたいな物って事でいいのよね?」
と、そんな風にかりんが言ってくる。
「降魔……ですか? ……えっと……少なくとも、魔を降ろすものではないと思いますが?」
「……それ、認識が神降ろしと混ざってない? いやまあ、降魔と書いて『コウマ』と呼んで、魔を降ろすという意味で使っているのも最近は見かけるけど……私の言っている降魔は、『ゴウマ』と読む方……『魔を降伏させる』という意味の方よ」
首を傾げて問う舞奈にそう説明をするかりん。
俺としては、後者――『魔を降伏させる』という意味の方を始めて聞いたな。世界の違いだろうか。
向こうの世界で『降魔』って言ったら、自身や道具に魔――精霊とか妖魔とかを宿すって事だったしなぁ……
「あ、そういう意味合いのものもあるんですね」
「……っていうか、昔はそういう意味合いしかなかったのよ。『退魔』もそうだけど、いつの間にか聞いた事もない意味を持つ言葉が生まれてて、最初見た時は首をひねって考えたものだわ。……これも、ジェネレーションギャップという奴なのかしらね?」
そう言って肩をすくめるかりんに対し、
「えっと……ジェネレーションではない気もしますが……。敢えて言うなら、エイジギャップ……とかでしょうか? よくわかりませんが」
なんて返して、頬を人差し指で掻く舞奈。
たしかに『世代』じゃなくて『時代』が違うからなぁ……。それもかなり。
などと、そんな話をしている間にも魔法による浄化は着々と進んでいき……
「ア……あ……ぁ……」
苦悶の叫びが静まると同時に、魔法陣が発生させていた光も消滅した。
どうやら完了したようだ。
「ご主人! 元の姿に戻っているブル! 成功ブルよ!」
魔法陣の近くで監視していたブルルンが、そんな風に告げてきた通り、異形化していた千堂璃紗は、元の姿――ホムンクルスに魂を移植されているので、元というにはあれだが、見た目そのものは本来の見た目だし、まあいいだろう――に戻っていた。
「さすが、成伯さんですね! 元に戻って良かったです!」
「そうね。まあ……あれだけ苦労させられといて、元に戻らなかったらたまったものじゃないけど……」
ブルルンの言葉を聞いた舞奈とかりんが、それぞれそんな風に言う。
言い方は大分違うが、どちらも安堵と喜びの表情をしているという点は同じだ。
「う……? あ……れ……? わた……し……は……?」
異形化の際に封じられていた意識が戻ってきたのか、項垂れるように座り込んでいた璃紗が額を抑えながら、そう呟く。
「あなた……がた……は……。……あ、ああ……そういう……こと……ですか。また、たすけ……られた……のです……ね。……あり……が――」
最後まで言い終えるよりも先に身体がグラリと傾いてその場に倒れ込んでしまう璃紗。
「えっ!?」
驚きの声を上げながら駆け寄る舞奈。
「大丈夫ブル。生命反応はしっかりあるブル。単に、姿が戻るのに体力と精神力を大量に消耗して、疲労困憊で気絶しただけブル。安心するブル」
「そ、そうですか……。ホッとしました……」
ブルルンと舞奈のそんなやり取りを聞きながら、
「こっちはどうにかなったわね……。まあ、まだ『黒幕』が残っているんだけど……」
なんて事を言って、やれやれと首を横に振ってみせるかりん。
それに対し、俺は同意するように頷き、そして言葉を紡ぐ。
「……そうだな。大津原をどうにかしなければ、今回の件は終われないな……」
と。
降魔と書いて、コウマorゴウマ。
一文字読み方を変えるだけで、大分違う意味になるという……
かりんは昔の人間なので、『降魔』や『退魔』という言葉に対して持つ感覚が違うんですよね。
なので、そのギャップについて表現するために、敢えて説明的な感じで入れてみました。
といった所でまた次回!
……なのですが、次は良いものの、その次が2日ほど普段の更新間隔より空いてしまうであろう状況でして……
どうにも間が空きすぎてしまうのが少し気になるので、申し訳ありませんが、次回も1日ほど普段の更新間隔から遅らせて、その次の更新日との間隔を同じにしようと思います。
というわけで、次の更新は3月6日(日)を予定しています!




