第12話 部室棟
「――ここは、各部が部室として使っている部屋が並んでいる棟ですね。基本的に1階は運動部が、2階と3階はそれ以外の部活が使っています」
一直線に続く廊下に立ち、そう告げてくる舞奈。
俺は今、お礼の先払いの件――つまり、舞奈に校内の案内をして貰っていた。
時間的に運動部は既に外に出ているらしく、放課後である割には、今俺たちのいるこのフロア――1階は静かだった。
ただ、上の方からかすかに楽器の音が聞こえてくるので、2階と3階には結構人がいそうだ。
「運動部以外の部活の方が多いのか……」
「そうですね。顧問となる先生と規定数の生徒――部員がいて、ちゃんと活動している事を先生に示す事が出来れば、部として成立する事もあって、他ではあまり見かけないような部もチラホラありますね。上にも行ってみますか?」
「んー、どんな部があるのか気にはなるが……まあ、今日の所はいいや」
今の所、これといって部活に入る予定はないしなぁ……
不定期ではあるが、『やる事』があるし。
「そうですか? では、このまま進んで武道場へ向かいましょう」
そう言って歩き出す舞奈に続いて、俺も歩き出す。
それにしても武道場、とはいかにもな名前の施設だが、戦闘訓練用の場所とかなのだろうか?
なんて事を思いつつ武道場へやってくると、何やら威勢の良い掛け声が響いてきた。
「左の通路の先がレスリング部、柔道部、空手部の道場、右の通路の先がフェンシング部、剣道部、薙刀部の道場、そして正面が弓道場となっています」
「なるほど……左が体術、右が近接武器、正面が遠隔武器か。わかりやすい構造だな」
「あ、たしかに。今まで気にした事がありませんでしたが……言われてみると、そういう見方も出来ますね」
俺の言葉に、得心がいったと言わんばかりの表情でそんな風に言う舞奈。
その直後、
「あれ? 透真に……月城さん? こんな所でなにを?」
という、聞き覚えのある声が耳に届く。
声のした方を見ると、そこには道着を身に纏った紘都の姿があった。
背の高い男子生徒と一緒だ。
「ああ。今、校舎の中を案内して貰っている所なんだ。紘都は部活か?」
「うん。僕は弓道部だからね。透真は弓道に――弓に興味はあったりする?」
「弓か……。まあ……一応、使えなくはないな」
魔物相手に魔法を付与した矢を放つ実験をしていた時に覚えたんだよなぁ。
……まあ、結局、魔法をそのまま矢の様にして飛ばした方が早かったせいで、ここ10年近く触ってもいないが……
「ほう。『使える』という返事をされるとは思わなかったな。ふむ……少し興味が湧いた。――少しどうだろうか?」
一緒にいるやや背が高く細身の、社交界の場に居たら、貴族令嬢の注目を浴びる事になりそうな、そんな容姿端麗な男子生徒がそんな風に言ってくる。
どう考えても、俺たちよりも学年は上といった感じだ。
そして、『どう』というのはつまり、俺に弓を射て欲しいという事だろう。
「っと、すまん。自己紹介がまだだったな。俺は弓道部の部長を務めている千堂怜司だ」
そう自己紹介をしてくる男子生徒――千堂部長。
なるほど『長』なのか。なんとなく納得だ。
表現が所々アレなのは、まあ、ファンタジー世界の人間基準なので……
という所で、本日はまだ更新します!




