第122話 術式解析
『リンク』を探りつつ観察していると、かりんとの攻防に合わせて、因子の位置が動いているのが認識出来た。
……やはり気のせいではなかったか。うーん、これは少々厄介……いや、もっと正確に言うなら、『面倒』だな。
かりんに動きを止めて貰っている間に、『リンク』の術式を書き換え、更に因子までどうにかしなければ、因子が動く事によって、書き換えた術式が無効化されてしまいかねん。
もちろん、両方の対処を一気にやる事自体は、さほど難しい事ではないが、問題は時間だ。長時間動きを止め続けられるのであれば、当然簡単に出来るのだが、かりんの術がそこまで保つかというと……今までの感じからすると、やや怪しい。
……いや、それを考えるのは、『リンク』を見つけてからか。
因子が動くとしても、リンクまで動くとは思えん。
リンクは『魂の欠片』ではなく『人が生み出したもの』だ。
そこが動いてしまっては、命令を受け取る際に色々と都合が悪い。
この仕組みを生み出した奴が、余程の酔狂な奴でもない限りは、そんな手間だけが増えるような真似はしないだろう。
そう考え、かりんとの攻防に合わせて動く因子の、その可動範囲をじっくりと観察。
すると、まるでコンパスで線を描く時のような動きをしている事に気づいた。
……つまり、可動範囲の中心部分が怪しいという事だ。
――そして、その推測は正しかった。
どういう方法を使っているのかはさっぱりだが、『リンク』は中心部分に巧妙に隠蔽されていた。
「なるほど……。こちらの世界で大昔に使われていたと云われている魔術の印や文字……。それらを刻み込んだ極小の翡翠板か」
俺は『魔法の眼』で見えた翡翠板をじっくりと確認しつつ、そう呟く。
そしてそのままリンクや命令の伝達といった術式構成を全て読み取る。
……うーん、仕組み自体はシンプルだな。これなら対処法はある。
最良の『どうにかする方法』が頭の中でまとまった所で、
「更に肉体の要所要所に埋め込んでおく事で、肉体そのものを一種の術式としている、というわけか……。よくもまあ、こんな仕組みを思いつくものだ。ただ、無駄に構造を複雑化しすぎだろ……これ」
なんて事を誰にともなくため息混じりに呟き、肩をすくめる俺。
と、その直後、
「透真ーっ! そっちはどんな感じかしらーっ!? ちょっと体力が怪しくなってきたんだけどーっ!?」
盾を使って異形との攻防を繰り広げているかりんが声を大にして問いかけてくる。
それに対し、そんな大声で叫んだら更に体力を消耗するのではなかろうか……と思いつつ、「ほぼ大丈夫だ!」と答える俺。
……『どうにかする方法』は確立出来たが、問題が残っていないわけではない。
なので、「ほぼ」なのだ。
問題点は、ひとつひとつの書き換えはすぐに終わりそうなものの、その書き換えをしなくてはいけない回数が半端じゃなく多い為、全ての工程が完了するまで、かりんの拘束が保つかどうかが微妙だという所だ。
しかも、拘束状態が解けてしまうと、因子が動いてしまい、最初から工程をやり直す必要が出てしまう。そうなるとかなりまずい。
……とはいえ、なんとかして保たせて貰うしか手はないのだが……
ま……とりあえず、かりんに説明するとしよう。
『どうにかする方法』は確立されたようですが……?
といった所でまた次回! 次の更新は、2月11日(金)を予定しています!




