第11話 舞奈との昼食
「うん、やっぱりカレーうどんはおいしいですね。成伯さんの奢りなので、余計にそう感じますね」
カレーうどんを食しながら、そんな事を言ってくる女神――じゃなかった、舞奈。
ちなみに、何故にカレーうどんを注文したのかと言うと、ジャージのままで食べるのであれば、もしもカレーの汁が跳ねたとしてもあまり問題にならないから、だとか。
そういう物なのだろうか……? 別にいいけど。
「そう言ってくれると、奢った甲斐があったというものだな」
「なにしろ、昼食抜きを回避出来ましたからね。感謝感激です」
「それなんだが……友達に金を借りれば良かったんじゃないのか?」
そう言ってから俺はふと気づく。……もしかして、友達いないんじゃないか? と。
そもそも友達がいたら、一緒に学食に来ているはずなわけで……ひとりで来ていたという事は……
「――残念ながら、私、友達があまり多くないんですよね」
手遅れだった……! 思いっきり告げられてしまった……!
「そ、そうなのか……」
どうにか上手い慰めの言葉を……と思ったのだが、口から出てきたのはその言葉だけだった。
「あ、いえ、まったくいないわけではないですよ……!?」
俺の様子に何かを悟ったのか、慌てたように否定の言葉を口にする舞奈。
そして、水を飲んでから、
「その……私の友達なんですが、少し前に私たちのクラスの男子と恋仲になりまして……毎日一緒に食べるのは、相手の方に悪いと思いまして……週2回だけにしているんです」
なんて事を言ってきた。
恋仲……。それは若干古めかしい言い方だ、とあの御仁が言っていた気がするが、最近の学生は、逆に良く使う言い回しだったりするのだろうか?
っと、それはどうでもいいな。それよりも……だ。
「そのウチのクラスの男子って……もしかして、紘都――守谷紘都か?」
と、問いかける俺。
「あ、はい、そうです」
「という事は……月城の友達は、あのやたらと元気の良い小井出か」
「え? 鈴花と会ったんですか?」
「ああ。紘都と、それから隣のクラスの雅樹と一緒に更衣室を出た所で遭遇したんだ」
「なるほど、そうだったんですか。……あの、何かご迷惑をお掛けしたりはしませんでしたか? 鈴花は割とテンションが高いと振り回してくるので……」
「いや、特にそんな感じではなかったな。というかむしろ、俺たちの方が邪魔してしまった気がするくらいだ」
俺はそう舞奈に返しつつ、まあ……ふたりの言動を考えると、一緒に行動したら自然とそんな風になりそうな感じではあるけどな……。と、心の中で付け加えた。
「――私は、どうやってもあんな風にはなれないので、ちょっと羨ましいです」
そう口にした舞奈の表情が、一瞬明るさを失った。
ほんの一瞬ではあったが、向こうの世界で仕事柄、長年貴族令嬢たちの姿を見続けてきた俺には、それが見えた。
貴族令嬢たちと同じ『憂い』を感じるその表情が、少し気になる所だ。
だが……まださほど仲良くなっていないこの状態で、おいそれとその理由を問う事など、俺には出来るはずもなかった。
今回の昼食のシーンは、短いですがこれで終わりです。
明日も連投での更新になる――なってしまうと思いますので、よろしくお願いいたします。




