第112話 異形化したモノ
「向こうから現れるとは思いもしなかったねっ!」
なんて事を言いながら、速やかに車を路肩に停止させる亜里沙。
俺は停止した車から即座に飛び出しながら、
「あれの相手はこちらでします! 中の様子を見てきてください!」
と、亜里沙にそう告げる。
「了解したよ!」
そう言いながら、建物の限界へと走る亜里沙。
「月城もブルルンと一緒に亜里沙の方へ行ってくれ!」
「え?」
反応からして、舞奈はこちらに残ってあれの相手をするつもりだったみたいだな。
だが――
「……あの異形が千堂璃紗である可能性は高い。だから、どうしてあんな状態になっているのか、その情報を得て、可能なら『分析』して欲しいんだ」
と、告げる俺。
「あ……なるほど、たしかに情報を得る事が出来れば、色々と分析出来ますし、取れる手が増えるかもしれませんね……!」
「ああ、そういう事だ。ブルルンがいればすぐに得た情報を俺に伝えられるしな。あとまあ……大丈夫だとは思うが、一応あの人の護衛も頼む」
「はい、諸々……了解です!」
舞奈はそう返事をすると、ブルルンと共に亜里沙の後を追って走り出す。
「って、いつの間にブルルンが?」
「使い魔だからな。呼ぼうと思えばすぐに呼べるんだよ」
「へぇ、そういうものなのね……」
「そういうものなんだ」
もっともな疑問を口にしてきたかりんにそう答えた所で、異形が玄関へと向かう亜里沙や舞奈に気づき、そちらへ迫ろうとするのが視界に入った。
「おっと、そっちじゃなくて、こっちを向いて貰うぜっ!」
そう言い放ちながら雷撃球を生み出し、そして異形へと放り投げる俺。
「グゥ!?」
くぐもった声と共に、異形が雷撃球に気づき、即座にバックステップ。
直後、雷撃球が地面に激突し、スパークしながら爆ぜる。
異形はそれを確認しつつ、「テ……キ……」なんていう呟きを発し、俺とかりんの方へと顔を向けてきた。
その目は赤く光っており、明らかに異形の標的が亜里沙たちからこちらへと移ったのが見て取れる。
これで亜里沙たちは問題なく建物の中に入れるだろう。
「どうやら、ばっちり注意を惹けたみたいね」
「そうみたいだな。これでふたりが狙われる事はないだろう」
そう返しながら俺は魔法剣を生み出す。
かりんがそれを見ながら、
「……それで? 舞奈を向こうに行かせたのは、この異形化した『千堂璃紗』を殺さざるを得ない可能性もあるから……かしら?」
なんて事を言ってきた。
「……よくわかったな。情報を得て来て欲しいというのも、もちろん嘘ではない。だが……正直、この異形化の速度は異常すぎる。出来る限りの事はするが……もしかしたら、元に戻せないかもしれない」
「――そして、どうしても元に戻せそうにないなら殺す、って事ね」
「そういう事だ。……異形化しているとはいえ、元は見知った人間――しかも、一度は元に戻した相手だからな。もし、そうせざるを得ない状況になった時に、舞奈に『その場面』を見せたくはないと思ったんだ」
まあ、かりんならいいのかって話ではあるけど、そこは感覚の違いというか……かりんは、異世界から来た俺に近い感覚と思考を持っている……ような気がするから、まあ問題ないだろうと勝手に判断した。
要するに……単なる個人的な感情――舞奈の感覚や思考を無視した、俺の一方的な感覚と思考に基づいた言動でしかないのだが、今回はそれを通させて貰おう。
……『もしも』の時は、後で舞奈から不満と文句を言われそうだから、『もしも』の状況にならない様にしたいけどな。
いや、まてよ? 既に俺の意図を分析されている可能性もある……のか?
立ち去り際の「はい、諸々……了解です!」という舞奈の言葉を思い出しながら、ふとそんな事を思う俺だった。
1月5日はやはり無理でした……
更に予定していた時間から約1時間程度遅くなってしまいました……
またその関係で、申し訳ありませんが次の更新が普段の間隔より、1日程度遅れる見込みです。
その為、次の更新は1月10日(月)となる想定です。
とはいえ……その次の更新からは、普段の更新間隔に戻れると思います!




