第110話 第2の隠し部屋と緊急事態
……たしかにもうひとつの隠し部屋に大津原はいた。
いたが……
「軽く調べた感じでは、死んでからそんなに経過していないみたいだよ」
と、亜里沙が言う通り、大津原は既に事切れていた。
「どうして亡くなられているのでしょう……?」
「どこにも外傷はないわね。……なんだか、『中身が抜け落ちた』かのような……そんな奇妙なものを、この遺体から感じるわ」
「ああ、それは俺も思ったというか……奇妙な物を感じたから、毒や呪詛の検知魔法を使ってみたが……その類が使われている様子はないな」
舞奈の疑問の言葉に続く形で、かりんと俺がそれぞれの方法で遺体を確認しながらそう告げる。
かりんの発言が気になり、更に魂魄の抜け落ちた動く屍――ロストソウルとかリビングデッドと呼ばれる類である可能性を疑って、念の為『アンデッド化』の術式――いわゆるネクロマンシーが使われていないかも確認してみたが、使われている様子は全くなかった。
……だが、たしかに妙な感じだな……
大津原の遺体を眺めながら、あれこれ思案していると、亜里沙が、
「――なんにせよ、然るべき場所に運んで検死するしかないね」
と、もっともな事を言い、再び電話をし始める。
「お疲れ様です、阿良木です。大津原を……って、ちょうどよかった……ですか? ……あ、はい」
そんなやり取りを聞きながら周囲を見回す俺。
……培養槽がさっきの隠し部屋と違って、縦に長い上に、液体が紫色だ。
ここで生み出されていたのは、あっちとは別のもの……なのか?
もしそうだとしたら、一体何が……
再び――先程とは別の事に関して思考を巡らせていると、再び亜里沙が声を発する。
ただし、「……えっ!?」という驚きの声だったが。
……なんだ? なにかあったのか?
「わ、わかりました! すぐに向かいます!」
亜里沙がそう告げて電話を切ると、俺たち3人を見回しながら、
「……念の為に千堂璃紗を再度検査しようとした所、突如として異形化したらしい。どうにか抑え込んではいるが、すぐに来てくれとの事だよ」
なんて事を言ってきた。
「「「!?!?」」」
俺たち3人が、驚きのあまり絶句する。
「……魂の欠片は完全に取り除いたはずだ。異形化する可能性は皆無なはずなのに、どうして再び異形化しているんだ……?」
「まさか、再び魂の欠片を手にしてしまった……とかだったりするんでしょうか?」
俺の疑問にそう返してくる舞奈。……なるほど、可能性としてはありえなくもないな。
「……そうだね。そうなる可能性も想定して、監視と検査を行っていたのだけど……さすがに四六時中監視するわけにもいかなかったから、監視の目のないタイミングで接触してしまった可能性は、ゼロではないと思う」
亜里沙も俺と同じような事を考えたらしく、舞奈に対してそんな風に言うと、そこで一度言葉を切り、俺の方へと視線を向けなおしてから、
「……ともかく、急いで向かうとしよう。異形化した者を元に戻せるのは、今の所、成伯しかいないのだから、ね」
と、そう言葉を続けた。
……たしかにその通りだが、こんな事態は初めてだ。
これまでの方法が通じれば良いんだが……
展開が急に加速した感じですが、2つ目の隠し部屋へ入るまでをやっても、同じような展開でしかなく、ダレるだけだったので、スパッとその辺はカットしてしまいました。
とまあそれはさておき、次の更新ですが、いつもより間隔が短く、明後日……元旦に更新予定です!
もっとも、だからといって年明けの正月らしい外伝みたいなものは特にありませんが……
なお、その次は申し訳ありませんが、正月の都合で少し間が空く想定です……
(多分いつもより1~2日多い感じになるかと)




