第107話 違和感と残滓
「なんなの、この白骨死体……。さすがに驚いたわ……」
そうかりんが呟いた所で、
「また、とんでもない物が出てきたね……」
と、ちょうど登ってきた亜里沙が言う。
「急にホラーとかミステリーみたいな展開になったわね」
あっさりと落ち着いたかりんが、そんな風に言う。
「まあそうだな。ってか、随分と落ち着くのが早いな」
「うーん……そりゃ、死体なんて見慣れているしね。いきなり骸骨に遭遇したから驚きはしたけど、それだけよ。別に怖いものじゃないし。あ、もしこれが動き出したりしたら面倒だけど」
俺の言葉にそう返し、やれやれと言わんばかりに首を横に振ってみせるかりん。
「なるほど。たしかにリビングデッド――アンデッドだと面倒だな。でも、元巫女なら浄化出来るんじゃないか?」
「出来なくはないけど、今の時代にも有効なのかしらね……?」
「……ふたりとも、なんだか観点というか論点というか……ともかくその辺りがおかしくないですか……?」
最後にやってきた舞奈が、呆れた表情でそんな風に言ってくる。
はて? 何かおかしいだろうか? かりんの言う通り、いきなり姿を見せたら驚きはするが、恐怖を感じるようなものではないしなぁ……。うーむ……?
舞奈の発言の意図が良く分からず、かりんと顔を見合わせて首を傾げていると、
「……少なくとも大津原の遺体ではないね。骨格からの推測だけど……この遺体は、女子生徒だと思うよ」
なんて事を、しゃがんで遺体を確認しながら告げてくる亜里沙。
「女子生徒……? 誰かがここに連れ込まれ、殺された……といった所ですかね?」
「……うん、告げておいてなんだけど……ふたりだけじゃなくて、月城も状況への順応が早すぎる気がするよ……」
舞奈の問いかけに、亜里沙は少し呆れ気味の口調でそう返すと、立ち上がり、
「ま、それはそれとして、そう考えていいんじゃないかな? 床に血の跡らしき染みもあるし」
と、そう言葉を続けた。
む……。気づかなかったが、たしかに床に染みがあるな。
しかも、亜里沙の言うとおり血の跡だ。この手の物は何度も見た事があるから間違いない。
「でも、この遺体……誰なのかしらね? 私、かなり長い間この学校にいるけど、生徒が失踪したなんて話は一度も聞いた事がないわよ?」
「そうだね。少なくとも私もそんな話は知らない。それに……この遺体、なんとなくではあるが……自然に風化したようには見えないんだよね……」
そんな事を言ってくるかりんと亜里沙。
……ん? 自然に風化していない?
その発言に違和感――引っかかる物を感じ、俺は遺体をじっと凝視してみる。
すると、朧げにではあるが『その正体』が見えてきた。
「なんだ……? どういうわけか、加速魔法の残滓みたいなものを感じるぞ……?」
「加速魔法と言うと……成伯さんが昨日、オーブンに使ったあれですか?」
「ああそうだ。あれに近い妙な魔力というか霊力というか……薄すぎていまいち詳細が掴みきれないが、そういった代物の残滓――残り香の如き『何か』を感じるんだ」
俺が舞奈の疑問の言葉にそう答えると、
「魔力、あるいは霊力の残存……。ふむ、それはつまり……この遺体はそんなに昔からあるわけではなく、なんらかの方法で白骨化が促進された可能性が高い、という事かな?」
と、今度は亜里沙が新たな疑問を投げかけてきた。
「これが本当に加速魔法かそれに類する物であるのなら、その可能性は十分あり得ますね」
「そうなると、それはそれで少し厄介だね……」
俺の返事に対し、亜里沙が首を横に振りながら、ため息混じりにそう返してくる。
その様子を見ながら俺は思った。
まあ……もしこれが加速魔法かそれに類する物だったら、この一件には、魔法や術を使う者が関係しているという事になるし、ため息をつきたくなるのもわからなくはないな、と。
色々あって更新がほぼ1日遅れになりました……
次は遅れないようにしたい所です……
さて、その次の更新ですが、明後日12月24日(金)の予定です!
クリスマス・イブですが、特にクリスマスらしい外伝話が湧いて来たりはしません……




