第103話 防火扉の先へ
「地味だけど便利な魔法ね……。一瞬で痛みが消えたわ」
「痛みだけじゃなくて、辛さも無効化出来るぞ」
「……なんで辛さまで?」
「辛いというのは、痛覚や温覚といった味覚とは異なる感覚によって生じる物だからね。その魔法がそれらに作用する事で、結果的に辛さも生じなくなるんじゃないかな」
首を傾げるかりんに対し、そんな説明をする亜里沙。
さすがは養護教諭――として入り込んでいる――だけはある、というべきだろうか。
「へぇ、そうなのね。初めて知ったわ」
「なるほど……たしかにその通りですね。納得です」
かりんと舞奈がそれぞれ違う反応を示しつつも、納得した表情を見せる。
「ま、それはともかくとして……この防火扉をどうするか、だね」
「そうねぇ……。ここをすり抜けられれば、それこそ窓を開けるとか、そういった他の方法も取れたけど、すり抜けられない以上、これをどうにかするしかないのよねぇ……」
「いっその事、破壊してしまうのも手だと思うよ」
かりんの言葉に、そんな風に返す亜里沙。
「仮にもこの学校の職員である貴方が何を言っているのよ……」
と、呆れ気味にかりんが言うと、亜里沙はサラッと、
「何、また壊れた事にすればいいだけだよ」
なんて言って返した。……そういう問題なのだろうか……?
「壊してもいいが……この向こう側――かりんと前に話をした場所があるだろ? あそこに印を刻んであるから、普通に転移で行けるぞ」
「それこそ早く言って欲しかったわ!」
俺の発言に食い気味にそう返してくるかりん。
「なんというか……すまん」
そう済まなそうに言うと、かりんは腰に手を当てため息をつきながら、
「はぁ……。まあいいわ。それじゃあ早速、転移魔法で移動しましょ。例の転移用の印とやらって、たしか外に設置してあったわよね?」
という問いの言葉を返してきた。
俺はそれに対し、肯定の言葉と共に頷いてみせる。
「ああ、その通りだ。一旦外へ出るとしよう」
◆
「――本当に一瞬で移動出来るんだね……。さすがは魔法、といった感じだよ」
転移魔法――というかゲートをくぐった所で、亜里沙がそんな感想を口にする。
「ですよね。私も凄い便利だと思います。いつか私も使えるようになると良いんですけどね……」
なんて言って首を横に振る舞奈。
「まあ何だ? 前にも言ったが、短距離の転移であれば、そのうち使えるようになると思うぞ。……っと、それはそれとして……4階に踏み込んだはいいが、肝心の司書教諭がどこにいるか、という問題が依然としてあるな。4階だけでもかなり広いし」
「成伯の魔法で、こう……上手い具合に分かったりしないのかい?」
「さすがに無理ですね……」
舞奈と同じように首を横に振り、亜里沙にそう返す俺。
そもそも上手い具合って言われてもなぁ……
どうしたものかと思っていると、かりんが通路の先をじっと見つめながら、
「うーん……。僅かに欠片の気配を感じはするのよね……本当に僅かだけど……」
なんて事を言ってきた。
「……他に手がかりもない事だし、その気配を感じる方へ行ってみるしかないな」
「そうだね。とりあえず行ってみようか。案内してくれるかい?」
俺の発言に同意する言葉と共に、かりんを見る亜里沙。
かりんはそれに対して「ええ、わかったわ」と言って頷いてみせると、そのまま俺たちの前に立って歩き始めた――
第1章であるSCROLL1も、最終盤といった所です!
……が、すいません少し間が空きます。
とはいえ、今回よりも間隔が1日短くなる想定でして、12月9日(木)の更新を予定しています。




