第10話 お礼の先払い
「ん? 月城?」
「あ、成伯さん」
「具合でも悪いのか?」
保健室は、体調が悪くなった場合や怪我した場合に訪れる場所だと聞いていたので、もしかしてと思い、そう問いかける。
必要に応じて、効果がありそうな魔法を使う事も辞さないつもりだ。
「いえ、具合が悪いわけではありませんよ。保健室を訪れたのは、その……さっきの体育の授業、女子はバスケだったんですが……相手チームがシュートし損ねたボールをキャッチしようとした所、失敗して顔に激突しまして……。当たりどころが悪かったのか、鼻から血が……」
と、バツが悪そうに答える舞奈。
「そ、そうだったのか……」
要するに鼻血が出たという話のようだ。
まあ、顔にボールが激突するというのは、それはそれで大事ではあるが、見た感じそちらは問題なさそうなので良しとしよう。
「はい……。それで保健室のご厄介になったというわけです。――成伯さんは、これから学食ですか?」
「ああ、そのつもりだ。……舞奈はどうするんだ? 学食か? それとも何か買うのか?」
そう問い返すと、何故か表情を暗くする舞奈。
ん……? どうかしたのだろうか……? と思っていると、
「……今日は昼食がない予定です」
なんて事を言ってきた。
「昼食を抜くのか? なんでまた……」
いわゆるダイエットという奴だろうか?
俺には良く分からんけど、そういう名称の、飯を抜く事で体重を減らすという文化? が、この世界にはあるらしいし。
って、そういえばその名称を男性が女性に言ってはならないという、暗黙の了解的な掟もあったな。
……ギリギリで思い出せて良かった。危うくうっかり口にする所だったぞ……
「じ、実は……財布を家に忘れてきていた事に、体育の授業の時に気づきまして……」
全然違かった。むしろ、思いも寄らない理由だった。
「ああ……なるほど。つまり、何も買えない……と」
「そ、そういう事です……」
「はぁ……。それを聞いて、このまま『はい、さようなら』とはいかないな。わかった、俺が奢ってやろう」
「え? い、いえ、そんなつもりで言ったわけでは……。それに理由もなく奢られるというのは凄く恐縮するというかなんというか……」
「いや別に気にしなくても……」
……って言っても気にしてしまうか。
だとするとこの場合は……
「――わかった。そうだなぁ……だったら、後で校内を案内してくれないか?」
と、奢る理由を付け加える俺。
「案内……ですか?」
「そう、案内。なにしろ、どこになにがあるのかさっぱりだからな。それなりに時間がかかるだろうから、そのお礼の先払いって事で」
「お礼の先払い……ですか。ふふっ、それはなかなか面白いですね」
俺の提案にそう返してくる舞奈。よく分からないが面白かったらしい。
「わかりました、後ほど学校の中をご案内しますね。――というわけで、ごちそうになります」
そう言って舞奈が満面の笑顔を見せる。不覚にも俺は、少しドキッとしてしまった。
……やはり舞奈は、俺にとっての女神なのかもしれない。
どうにも区切りが悪いので、今日はもう1話いこうと思います。




