第99話 乗り込むか乗り込まないか
『まあ……それはともかく……踏み込むなら情報をきっちり得て、逃げられる可能性を潰してからの方が良いと僕は思うよ』
桜満が話の流れを元に戻すように言う。
……自分から話の流れをおかしくしていたような気もするが、敢えて突っ込むまい。
「でも、踏み込まなかったら踏み込まなかったらで、情報を隠蔽される可能性も同じくらいあるんじゃないかしら?」
「……そうですね。特に今日は休みですし、学校内にはごく一部の部活のある生徒くらいしかいません。何かするには絶好のタイミングなのではないでしょうか? おそらく、学校内のどこかを利用しているでしょうし」
『なるほど……そうなのか。学校が完全に閉鎖されているのなら立ち入るのは難しいと考えたのだけど、一部の部活動の為に開放されているのなら、学校内に立ち入るのはさほど難しくはない……つまり、隠蔽される可能性もたしかにあるね』
かりんと舞奈の話を聞いた桜満がそんな風に返し、うーんと唸る。
「かりんは、あの司書の事を知っているんだよな? 土日も学校に来ていたのか?」
「そうねぇ……。毎週ってわけじゃないけど、1ヶ月に1回か2回くらいの割合で来ていたわね。しかも、今考えるとずっと図書室にいたわけじゃないわね」
「となると、ちょっと学校に偵察に行った方が良さそうな気がするな……。――どうだろうか?」
俺は、かりんの話を聞いて出した結論を口にしながら、桜満に問う。
『まあ、たしかに少し確認した方が良いかもしれないね。……ただ、その司書だけど、月城さんを殺害したまま放置していっている。隠蔽もせずに立ち去るような人間が、ここで学校へ行って情報を隠蔽するのだろうか……という疑問は少しあるんだよね』
「……ああ、言われてみるとたしかにそうだな。いくらここがあまり人の来ない場所だとはいえ、この施設――商業施設自体は多くの人間がいる場所だ。いずれ誰かが来て確実にバレるはずだ。そんな場所で人を殺害したのなら、隠蔽工作のひとつやふたつしていってもおかしくはないはずなんだが……」
俺が桜満の言葉に同意し、そんな風に呟くように口にした所で、
「ブルたちの到着が早すぎて隠蔽する暇がなかった……とか、ブル?」
なんて事を使い魔が言ってきた。
「……たしかにありえますね……。というか、使い魔さんはブルという名前なんですか?」
「いや、まだ特に名前は決めていないんだが……まあ、自分でブルと言っているし、ブルでいいんじゃないか?」
唐突な舞奈の問いかけにそう返しながらブル――使い魔を見る俺。
「ご主人……出来れば正式な名前を付けて欲しいブルよ……? ブルというのはあくまで仮ブル……」
身体を左右に振りながらそんな風に言ってくる。
その仕草は、まさにやれやれと言わんばかりだ。
「じゃあ、代わりにつけましょうか?」
「お願いするブル!」
「――では……ブルルンで!」
ほんの一瞬思案した後、そんな風に言い放つ舞奈。
「あんまり変わらないブルね!? ……まあでも、ブルよりは可愛いから良いブル」
――とまあそんなわけで、使い魔の名前は『ブルルン』に決まった。
若干、諦めに近い声だった気もするが……
『あー……使い魔の名前を決めている間に新しい情報が入ったよ』
話が使い魔の名前へと脱線している間に、なにやら進展があったらしい。
「……なんだ? まさか、司書が口封じされた……とかか?」
もしそうだとするなら少々厄介だなと思いつつ問う。
『いや、ナイフを手にした男が地下駐車場で死んでいるのが発見されたよ。……もっと正確に言うなら、勢いよく投げ飛ばされたかなにかして壁に激突して死んだ、だね。なにしろ、男の死体があった真後ろの壁に、盛大にヒビが入っていたそうだからね』
と、桜満。
……殺されたのはそっちだったか……
この話は話数的には99ですが、プロローグを入れるとちょうど100話目だったりします。
ここまでお読みくださった方には感謝しかありません! これからもよろしくお願いします!
さて、次は話数的な方でも100話目を迎えますが……更新は、11月24日(水)を予定しています!




