第98話 灰色と隠蔽
「……とまあ、そんなわけだ」
舞奈に感謝の言葉を述べられた後、俺は桜満に再び電話をし、事の次第を伝えた。
『そんな事があったとはね……。月城家への説明になかなか困るね、それは……』
と、ため息交じりに言ってくる桜満。
……月城家の人間は『分析』出来るからなぁ。
下手な隠蔽では一瞬で看破されるし、かと言って真実を伝えるのは色々問題があるし……
「あ、あの……それについては、近い内に私が自分自身で、父かお祖父様に自分で伝えますので大丈夫です」
「……と、言っているが」
『そうかい? そうしてくれるなら色々と助かるけど……』
「まあ、その時は俺も同行するさ」
『……逆に心配になるんだけど……』
俺の発言に対し、そんな風に返してくる桜満。
まて、どういう意味だそれは。
と思い、それについて言葉を発しようとした所で、
「そういえば、女性の方から箱を掠め取ったのだけど、これって問題ないわよね?」
なんて事を懐から――なんでそんな所にしまっているのかはさておき――取り出した箱を眺めながら、桜満に問うかりん。
……ああ、そういえばそんな話していたな。すっかり忘れていた。
桜満への追求よりそちらの方が重要性が高いので話題をそちらに移す。
「放置しておいたら逆にまずいだろうし、俺は問題ないと思うぞ」
『まあそうだね……。正直、凄く黒に近いグレーだけど……ね。――あ、ちなみにその女性についてだけど、今さっき確保したという連絡があったよ』
「マジか。よく確保出来たな……」
特に罪状もなく捕まえられるものなのだろうかと思い、そう口にすると、
『なぁに、確保するだけならどうとでもなるのさ。逮捕したわけじゃないしね』
などと返してくる桜満。……かりんだけじゃなくて、こっちもグレーな気がするぞ……
「……とりあえず、この箱の中身についてはこの後、軽く調べてみるか。それで? あの司書とやらの方はどうなったんだ? 情報が出揃い次第連絡するとさっきは言っていたが、まだ出揃っていない感じか?」
『……実は、出揃うどころか何一つ掴めていないんだよね。経歴が』
「え? え? ど、どういう事ですか?」
俺と桜満のやりとりを聞いていた舞奈が、驚き気味にそんな反応を返す。
『巧妙に隠蔽されているようでね……。思った以上に手間取っているよ。――現状で、ただ一つ言えるのは、学校の図書室の司書という肩書きは隠れ蓑にすぎないって事だね。もっとも……どうしてその肩書きを隠れ蓑にしているのか、とかはさっぱりだけど』
「まあそうだな。……いっそ、直接乗り込んでみるか?」
『月城さんを一度は殺害した人物が何者なのか分からない以上、不用意に踏み込むと、情報を得られなくなってしまう可能性があるから止めた方が良いと思うよ』
「危険だから、じゃないのね……」
『だって、どう考えても危険なんてない――というか……どんな危険があったとしても、きっと全て跳ね除けてしまうだろうからね』
かりんの呟くような一言にそんな風に返す桜満。
「たしかにそうですね」
舞奈が頷いてそう口にする。
……その『たしかに』は、不要に踏み込むと情報を得られなくなる事に対するものと、俺がどんな危険でも跳ね除ける事に対するもののどっちなのだろうか……?
なんて事をふと思う俺だった。
はてさて……?
といった所でまた次回! 次の更新は、11/21(日)を予定しています!




