第93話 使い魔
――早速、最後に送られてきたメッセージに記されていた所へとやってくるも、残念ながら舞奈の姿はなかった。……ま、そうだよな……
「ここからどこへ行ったのかしら……。エスカレーターが近くにあるせいで、予測がしづらいわね……」
「そうだな。このまま奥へ行ったのか、エスカレーターで上へ行ったのか下へ行ったのか……選択肢があまりにも多すぎる……」
かりんに冷静な口調でそう返しつつも、俺は内心で焦りながら、どうすれば良いのかと考えていた。
……舞奈を追跡出来る魔法……は、さすがにない。
そもそも、そんな魔法は存在しないし、生み出すにしてもどうやって生み出せばいいのかすらわからない。
であれば使える魔法は何か……と考えつつ、ふと顔を横に向けてみると、そこには動物のキーホルダーが並んでいた。
ふーむ、動物……か。
犬の使い魔とかがいれば、匂いで追いかけられそうな気もするが……犬の使い魔なんていないしな。……というより、使い魔自体がいない。
……いや待てよ? 犬なら『ある』な。
俺はそう思い至ると同時に、魔法収納空間からフレンチブルドッグのヌイグルミを取り出す。
そう、これだ。
そのまま人目に付きにくい場所へと移動し、そこで隠蔽魔法を使った所で、
「これは……隠形の陣? 何するつもり?」
と、後を付いてきたかりんがそんな風に問いかけてきた。
「このヌイグルミを使い魔化して舞奈を追跡する」
そう答えながら、別の魔法陣を展開し、その上にヌイグルミを置く俺。
「使い魔……たしか、式神みたいなものよね。ヌイグルミの式神って舞奈を追跡出来るような力があるの?」
「ヌイグルミではあるが、これは『フレンチブルドッグ』という『性質』を持っているからな。その性質をもとに使い魔化する事で、犬と同じ能力を持つようになるんだ」
「犬と同じ……。つまり、舞奈の匂いを使い魔に追わせる……って事かしら?」
「ああ、そういう事だな」
そんな会話をしている間にも俺の儀式魔法はつつがなく進行していき、魔法陣の上に置かれたヌイグルミが金色の光に包まれる。
「よし、完了だ」
そう口にすると同時に、ヌイグルミを包み込んでいた金色の光が消え、
「ブルゥゥゥッ!」
という声と共に、ヌイグルミが浮かび上がる。
「わっ、凄い! ヌイグルミが宙に浮いてるわ!」
「ご主人の魔力が高いから、簡単に浮遊魔法が使えるブル! ご主人は凄いブル!」
かりんの驚きの声に対し、俺を褒める言葉を返すヌイグルミの使い魔。
「しかも、なんか普通に喋ってるし!」
「色々説明するべき所なんだろうが……未だに舞奈からメッセージが来ないどころか、既読すら付かない事を考えると、ここでこれ以上悠長に話していわけにはいかない。すまんが、その辺りは諸々後回しだ」
そう言いながら、俺は魔法収納空間から取り出した舞奈のパーカーをヌイグルミに見せ、そして問いの言葉を続けた。
「――早速で悪いんだが、この匂いの主を追跡出来るか?」
と。
フレンチブルドッグ(のヌイグルミ)の使い魔誕生です!
とまあ、そんな所でまた次回! 次の更新は、11月6日(土)を予定しています!




