Hell Seed
耳を流れる冷たい風が、鉄を鳴らす足音をかき消す。
小さな酸素ボンベ携えたマスクを装着している少女が錆びた梯子を上っていく。少し上ると、金網の足場と鉄柵でできた小さな足場に着いた。少女は厚手のコートを羽織り、制御盤に繋がれた配線類をかき分けて、反対側の梯子を上り鉄のハッチを開ける。
ハッチハンドルは少し凍結していた。
氷の砕ける音と鉄の擦れる音が重なり耳を劈く唸りを上げる。
ハッチを開けると凍てつくような風が吹き荒れる。
「高度6千メートルは相変わらず寒いねぇ」
ハッチから顔を出した少女がつぶやいた。
「制限時間は20分。やりますか」
ハッチの入り口に腰掛け、カバンからカメラを取り出しおもむろに周りの景色を写真に収めていく。
タイムリミットを伝えるアラームが鳴り、少女はカメラを仕舞う。カメラを仕舞い終わると少女は再び景色を一望する。
(いつか外に出られるといいな)
そんなことを思いながらハッチを降りようとしたとき、背中に衝撃が走りハッチの外へ投げ出され、外界との接続を遮断するシールドの上を滑り落ちていく。
その間も、背中から赤黒い靄が全身へ湧き上がってくる。
「うそ!うそ!うそ!」
少女は必至にもがくが止まることはなく落ちていく。
「高度6千メートルから落下すると加速度があれで。ええっとわからん」
十数秒で、少女は都市部と下層部の境目まで落ちていた。
(あぁ~ここで死ぬのかな。そういや飛び降り自殺って地面との接触前に気絶するんだっけ?本当になるのかな?せめて走馬灯は見たいな)
そんなくだらないことに思いふけていると、何かが少女の横を通り過ぎていった。その風力により少女は体勢を崩す。
体制を立て直すと、辺りが異様な光景になっていた。
赤い空間に、ニュースで見るような小惑星が無数に漂っていた。
その一つに少女は落下していくと同時に、視界がブラックアウトし始める。
意識が消える前{鳥籠の人間が}そう聞こえた気がした。
「お姉ちゃん!ごはん!」
声と同時に勢いよくドアが開く。
「お腹空いたんだから早く起きて」
「うぇ?」
変な声が出た。
あれ?さっきまで夕方だったのに、しかも外に、ましてや死にかけていたのに。
今や夜だ。しかも自室にいる、それに生きてる。
(あれは何だったんだ?とりあえず居間にいかなきゃ。)
そう考えゆるりと体を起こし、居間へ行く。
「お姉ちゃん早く」
「ホムラ、早く食べちゃいなさい」
妹と母が催促する。
「母さんは食べないの?」
「先に洗濯物を取り込んでから食べるわ。」
「そう」
「いただきます」と感謝を述べて食事につく。
いつもならテレビを見ながら無心で食べるご飯だが、さっきまでのことが頭から離れなかった。
(そういや私ってどうやって帰ってきたんだ?)ふとそんなことを思った。
「ねえ、ハルカ」
「何?}
ご飯を頬張りながら妹が返事する。
「私ってどうやって帰ってきた?」
「どうやってって、普通に帰ってきてたけど。あ、でも疲れて見えたかな」
「どんなふうに?」
「どんなふうにって、普通に…疲れて見えたけど。なんかあったの?」
「いや疲れすぎててか、どうやって帰ってきたか覚えてなくてさ」
「お姉ちゃん興奮すると周り見えなくなるんだからちゃんとしなよ」
「あい」
何か情報が得られるかと思ったが、特に得られずお叱りだけを受けた。
ご飯を食べ終えてから色々と考えてみたが答えは浮かばなかった。
(とりあえず疲れたし、お風呂入って寝よう)
夜も遅く、今考えても埒が明かないと思い湯銭に入り、寝床につく。
寝床につくと睡魔がすぐに襲ってきて意識が夢の中へ移ろいで行く。




