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畑を荒らしに来たロックドードーを始末した報告を済ませ、村長に言って手の空いている村人を何人か回して貰えるように頼んだ。
畑に戻って見ると、意外にも多くの野次馬が集まってきていて、結局その中から子供を除いた半数以上の村人が手伝いを買って出たので、作業はあっという間に終わってしまった。
「皆で手伝って貰ったから直ぐだったね」
村長がやって来て深々と頭を下げる。
「退治して頂き、ありがとうございます」
「いやあ、仕掛けた罠が思った以上に効果あったもんで」僕は頭を掻いた。
「でもまだ森に巣食ってるロックドードーの間引きも残ってますから」
「そちらも、どうかよろしくお願い致します」
取り敢えず、ギルドで、受けた依頼は完了したということで、受領書に村長のサインを貰った。
これで当面の間は村の畑を荒らしに来ることはないだろうし、追加の仕事は急ぎでもない。今日はゆっくり休んで、また明日からの準備に取り掛かろう。
「……お肉」
グゥゥゥ。
ミアが綺麗に解体されたロックドードーのむね肉やモモ肉を眺めてお腹を押さえた。
「……まだ仕事も残ってますし、この量を持って帰る訳にもいかないんで、村の皆さんで食べちゃいましょうか」
「おお、よろしいのですか!」
村長の指示で村の男たちが村祭りで使うテーブルやイスを広場へと運び出し、女衆が調理の準備に掛かる。
しばらくして広場に置かれたテーブルの上にはロックドードーの肉と村で収穫した野菜を使った料理が並べられた。
肉串、モツ煮込み、モモ肉のステーキ、むね肉とパップリカの炒め物、ササミのチーズ巻き、軟骨の唐揚げ。
頼んでもないのに笛や太鼓まで鳴らし始め、いつの間にか祭りのようになってしまった。
「肉、にく、ニク~」
ミアが村人に勧められるがままに料理を口いっぱい頬張っている。
うん、まあ、皆楽しそうだし、ミアも喜んでるから、まあ良いか。
明日からの準備もあったんだけど、今日はもう諦めて祭りを楽しむ事にした。
翌日。
普段飲み慣れない酒を飲んだので少しばかり頭が痛い。でも、お返しにと勧めたドワーフの火酒は村長以下、数人の自称“村一番の酒豪”たちを完膚な迄に叩きのめした。あの様子では今日一日、二日酔いで苦しむ事だろう。
僕は重い頭を抱えてようやくベッドから体を起こした。隣でミアが大きなあくびをしながら伸びをしている。
依頼完了の為に一旦、街に戻るか、それともこのまま追加の依頼をこなしてしまうか少し悩んだが、また半日掛けて行って帰ってくるのも面倒だと思い、このまま討伐を続けることに決めた。
ロックドードーが森でどれだけの数、繁殖しているのか。群れの総数が分かれば良いのだけど。
昨日、村人に聞いた話だと近年は農業が主な産業で、常駐していたハンターが引退してからというもの、森で狩りを生業とするものは居なくなったとのことだ。
「時間に余裕があるなら、森に罠を仕掛けてここで様子を見るのが楽だし、安全なんだけど」
取り敢えず、どのくらいの数が居るのか確認してみないことには対処のしようがないな。昨日のミアの動きを見る限りは最悪、力押しでも行けそうな気がする。
「ま、取り敢えず準備して見に行ってみようか」
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村の畑を荒らしに来ていたのだから、近くに巣があるのかも知れないが、畑に現れたのと森に生息しているものとは、そもそも別のグループの可能性もある。
森にわけ入って直ぐに獣道を見付け、周囲を警戒しながら探索していると、小一時間ほどで巣を見つけた。
遠くから様子を窺う。ツガイが二匹。獣道に罠を仕掛けることも考えたが、時間が掛かるし確実じゃない。それにどうやら巣には卵があるようで、巣の回りから離れる素振りが見えない。
物音を立てないように注意をしてミアに反対側に回り込むように指示し、挟み撃ちをすることにした。こういう時、獣人族の静かでしなやかな身のこなしは重宝する。流石は生来のハンターと言ったところか。
僕が先に飛び出し、ロックドードーの注意を引き付けたところで不意をついてミアに背後から仕留めてもらう算段だ。
ミアが指定の位置についたところで、僕はわざと音を立てながらこっちにロックドードーの注意を向けさせる。
巣の近くだからか、二匹のロックドードーはかなり気が立っている。鶏冠を真っ赤にして近くの一匹が襲い掛かって来た。
気が立ち、臨戦態勢のロックドードーを正面から相手するのは中々骨が折れる。熟練のハンターからすれば、さほど手の掛かる魔物ではないが、大きな嘴が邪魔をして、弱点である首を狙うのが難しい。やたらめったら斬りつけて苦しませるのも可哀想だし。
僕は腰から左手用の短剣マン=ゴーシュを抜いて牽制しつつ、隙を見てブロードソードでロックドードーの首筋に斬り付けた。カウンター気味に入ったのが上手いこと首を切断し、切り口から勢い良く鮮血が吹き出す。首を失ってからもしばらく羽や脚をバタつかせていたが、それもやがて動かなくなった。
ミアはといえば、巣で卵を守っていたもう一匹を背後からの不意討ちで見事に仕留めていたようで、昨日教えた通りの手順で血抜きを行っていた。
一対一なら昔とった杵柄、遅れを取る様な相手ではないけど、先に終わったんなら、心配するとか手伝ってくれるとかしてくれても良いような気がしないでもないんですけども。ミアさん、結構ドライです……。
「まあ、怪我もなく終えられたし、ハンターの初仕事としては上出来かな」
ミアにはこれから色々教えていこう。
僕は解体を始めようとするミアに声を掛け、手の空いてる村人を呼んできてもらうように頼んだ。
流石にミアと二人じゃ、仕留めたロックドードー二匹と巣にある卵を村まで運ぶのは無理があるからね。
村人たちに仕留めたロックドードーを運んでもらっている間、ミアと二人で半日掛けて森を散策したが、村の近くにはそれらしい巣も無かったので、追加の依頼もこれで完了とした。
仕留めたロックドードーは巣にあった卵も含めて村へと寄付をした。畑も荒らされ大変な事だし、追加の依頼代金も辞退したのだけれど、村長がどうしてもと言うのでロックドードーの素材と卵の代金ということにして僅かな金額を受け取ることで納得した。
道中の安全を考え、もう一晩だけ村でお世話になり、翌朝に村を離れて、日が傾く前に街へと戻ることが出来た。門番に声を掛けて街に入り、その足でハンターズギルドへと向かう。
「依頼完了の報告に来たよ」
「リュウヤさん、お疲れ様でした。ミアさんも」
「これ、依頼書。村長のサインももらってきた」
「はい、確かに確認いたしました。こちらが今回の依頼の報酬となります」
「ありがとう」
「ところでリュウヤさん」
「ん?」
ハンターズギルドの受付嬢セージが何か困ったように言葉を詰まらせている。何だろう、今度の依頼でミスでもあったのかな?
僕は躊躇いがちに口を開くセージ嬢の次の言葉を待った。




