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ミアが元気なくなったので、仕方なく干し肉を噛らせて夕飯までの繋ぎとした。甘やかしたら癖になるのだけど、しょうがない。僕は猫と少女に弱いんだ。
自分の欠点に素直に向き合うというのは一流のハンターとして大事な事だと若い頃、師に教わった。だから今はこれで良いのだ。人というのは失敗から学び、成功の礎とーー
「討伐、行く……?」
「え。あ、ああ。そうだね、よし行こう」
図らずもミアに急かされる形で準備を終えた僕は、ミアにも手伝ってもらい、用意した荷物を畑へと運んだ。
「これから討伐するロックドードーって魔物は匂いの強い果実に惹かれる習性があるんだ」
僕は用意した荷物の中から酒瓶を取り出した。
「これはうちの店で出してる果実酒だよ。これにドワーフが蒸留したアルコール度が高い火酒を加えて、それにここの畑に生ってる果実を漬け込んで……」
仮宿としている空家の炊事場で見つけてきた数個の土瓶に酒と果実を入れ、畑に浅く掘って土瓶の口が見えるほどに埋めた。それを数ヶ所、等間隔で配置する。
「今は蓋をしておこう。夜になったら蓋を外して、ロックドードーが現れるのを待つ寸法さ」
「……上手くいく?」
「さあて、お手並み拝見と言ったところだね。それじゃあ、」
グゥゥゥ。
「……夕飯の仕度をしようか」
お腹を押さえたミアの背を抱えて仮宿に戻りつつ、僕は今夜の献立は何にしようかと考えていた。
翌日の早朝。
まだ日の昇る前に僕たちは準備を済ませて罠の前へと向かった。ロックドードーは目の良い方ではないが、それでも念のために果樹の後ろに身を潜める。
直ぐに飛び出せるように剣は鞘から抜いてある。朝日に反射しないように僕とミアの持つ剣の刀身にはかまどの煤を塗り付けていた。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。朝の白い光が朝露に濡れて湿った肌を優しく刺激する。
唐突に騒がしく鳴き立てていた虫の音が止む。僕は剣の柄を握り直す。隣の木の陰に隠れているミアを見た。何かに気が付いたらしく、しきりに耳と鼻を動かしている。
程なくして茂みが大きな音を立てて揺れ、パキパキと枝葉を押し退けて4頭のロックドードーが現れた。
荒らし慣れてしまったのか、森から周囲が開け、人の手が入った畑に出たというのにさほど警戒する様子もない。
しばらく様子を見ていると、仕掛けた罠に近寄っていくのが見えた。甘い果実酒の匂いに惹かれているのが分かる。やがて一匹が仕掛けた土瓶に嘴を突っ込んだのを皮切りに、他のロックドードーたちも仕掛けた餌に食い付いた。
もともと鈍重だったロックドードーが、酒をたっぷり吸った果実を食べて酔い、更に鈍重になる。フラフラとしているのを見届けて、僕はミアに合図を送った。ほぼ同時に2人で木の陰から飛び出し、酔って動きの鈍くなったロックドードーへと襲いかかった。
最初に斬り付けたのはミアだった。本格的な戦闘は初めてだと思うが、動きは良い。手近な一匹に対して猫人族特有の俊敏な動きで駆け寄り、教えた通りに羽毛の無い、剥き出しの喉元に向かってエアリアルナイフで斬りかかった。直ぐに驚き声を上げるもう一匹に飛び掛かり、鋭い嘴の一撃を間髪で避けると背に飛び乗り、首筋にナイフを振り下ろす。
ミアに遅れを取る形になったけど、僕も何とか無傷で二匹を仕留める事が出来た。
「思ってた以上に上手くいったね」
僕は剣に付いた血糊を拭きながらミアに声を掛けた。
「こんなに強い酒なんて飲んだことないだろうから、直ぐに酔っちゃったんだろうな」
「ん……簡単だった」
「ミアの動きが良かったのもあるけどね。でも普通にやってたら、こんなに簡単にはいかないよ」
「そう?」
「そうさ。それに、この方法は森では使えないからね」
ミアが首を傾げた。
「森でこれをやると他の生き物まで集まって来ちゃう可能性が高いからさ。そうなると罠が幾つあっても足りないだろ? だから次は何か他の手段を考えなきゃね」
「ん……分かった」
僕はミアの頭を撫でた。
ベルトから小刀を取り出し、それを手渡す。仕留めた獲物の血抜きの仕方をミアに教える。
「その解体用の小刀はミアに預けるから、次からは1人でやってみな」
「ん……」
「さあ、血が抜けたら、次は沸かした湯を掛け回して羽毛を抜かなきゃ……って、さすがにこれは2人じゃ時間が掛かるな。村長さんに言って誰か手伝ってもらう事にしよう」
ミアに罠の撤去とその場の後処理を頼み、僕は報告を兼ねて村長の家へと向かった。




