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依頼内容はロックドードーの討伐だ。
ハンターズギルドの受付嬢セージの説明によれば、ロックドードーは隣村に隣接する森の中に棲息しているらしい。報告によれば、村の過疎化により村専属のハンターの成り手がいなくなり、ロックドードーの間引きが追い付かずに増えてしまったとのこと。森に餌となるものが足りなくなったせいで、村の畑を荒らしに来るようになったのかも知れないとの事だった。
隣村までは馬車も出ているが、歩いても半日は掛からない。今から向かえば昼過ぎには着くだろう。
ここ数日は月が明るかったせいか街に【はぐれ】の姿は見掛けない。
【防壁】に近付くにつれ、人のざわめきが聴こえてくる。交代の時分なんだろう、吉祥天使たちが僅かに上気した面持ちで互いに声を掛け合っていた。
「ハンターだけど、依頼で隣村まで行きたいんだ。開門してもらえるかい」
「ん? ああ、ちょっと待ってな」
門番が2人がかりで閂を外しに掛かる。
「あれ、あんた。宵闇亭のマスターじゃないか」
扉を開けた後、門番の1人が声を掛けてきた。僕は頭を下げる。
「今、店は閉めてるのかい?」
「うちみたいな、基本、酒だけ出す店は、まあしょうがないですね」
「領主様も少しは融通利かせてくれりゃあ良いのにな」
「まあ、こんなご時世ですから」
「じゃあ、今日は出稼ぎか。頑張んなよ。緊急事態宣言が撤回されたら、また呑みに行くからよ」
「ありがとうございます」
気さくな門番に手を振り、僕とミアは真っ直ぐ隣村へと伸びる街道を北へと向かった。
ミアは思ってた以上に健脚だった。
最初の内は小柄なミアに合わせてゆっくり行くつもりが、気が付けばペースが上がり、予定していた時刻よりも早く目的の村が見えてきた。
村に入ってから不測の事態が起こるかもしれないので、村に入る手前で街道から少しそれ、腰を落ち着ける場所を探す。そこで火を起こし、湯を沸かしてお茶を淹れ、簡単なお昼にした。
食休みを終えて火の後始末をし、再び背負い袋を担いで街道に戻る。村までは四半刻もしない距離だったので、僕たちは直ぐに村に着いた。
「先に依頼主に会っておこう」
村人に村長の家を教えてもらい、扉を叩いた。
客間に通されて村の現状と今回の依頼の内容を確認する。
「それにしても、ホントに防壁が無いんですね。噂には聞いていましたが、実際に目にして驚きました」
僕は先ほど見てきた村の様子を口にした。
「ええ、ここには魔素溜まりが在りませんので」村長は力なく笑った。
「しかし、そのせいで今回の様な事態になってしまいました。村も若者が少なくなりましたから、畑を守る者も少なくなりまして」
魔物を引き寄せる【魔素溜まり】の殆どはダンジョン内に生まれる事が多い。そこには多くの魔物を引き寄せるが、同時に貴重なレアメタルや魔素を多く含んだ地下水、更には魔物が溜め込んだ宝物などを求めて一攫千金を狙うハンターたちが集まってくる。吉祥寺の街などはそうして出来たのだ。
逆に言えば、近くに大きな魔素溜まりがあるからこそ、今までこの村は魔物が素通りしてきたのかも知れないな。例えるなら、台風の目とでも言ったところか。きっと今回の様な事は村人からしたら想定外の事だったんだろう。
僕は情報を精査するために村長に訊ねた。
「畑を荒らしに来るのは何匹くらいか分かりますか」
「ええ。大体、4~5匹といったところです。森での縄張り争いに負けたのか、餌を求めて度々村の畑を荒らしに来るのです」
「では、今回の依頼達成条件はそいつらの駆除と言う事でよろしいですか?」
「ええ……しかし、出来ましたら、その、森に棲息しているロックドードーも、何匹か間引いて頂けると有難いのですが……」
「分かりました。ご期待に添えるよう努力します」
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何年か前から住むものが居なくなったという空家を貸してくれると言うので、お言葉に甘えてそこを当面の仮宿とすることにした。
「少し埃っぽいけど、ちょっと掃除すれば大丈夫だね」
大きなベッドが2つに小さいのが1つ。3人家族だったのだろうか。クッションは傷んでいたけど、埃を払えば十分横になれる。
「あ、そこに箒があるね。ミア、悪いけど掃除をお願い」
背負い袋を床に下ろすとミアは言われた通りに箒で掃き掃除を始めた。
僕はクッションの埃を手で払い、ベッドに腰掛けて荷物を紐解いた。
村長の話だとロックドードーは早朝から陽が上りきる前に現れて畑を荒らしていくらしい。先ほど畑の様子を見たら、収穫前の果実や野菜が半分近く被害に遭っていた。早く対処しなければ、村の作物は全滅してしまうだろう。
今朝ロックドードーに荒らされたばかりと言うので今日はもう現れないと決めつけ、明日からの準備に取り掛かることにする。
ロックドードーは大型の鳥だ。大きさは大人の人間を二回りでかくした感じ。
羽根は退化し飛べはしないが、鋭い嘴で大抵の物なら噛み砕いてしまう。草食だが、気性は荒く、経験の浅いハンターでは数人掛かりでも無事では済まないだろう。ましてや素人では手に終えない。
僕も駆け出しの頃はコイツにずいぶんと怖い思いをさせられたクチだ。今回はミアもいることだし、準備は入念にしないとね。
「……ご主人様」
「ん。終わったのかな」
僕はミアの頭を撫でた。
ミアは何か物欲しそうにしているが、まだだ。まだ今じゃない。
時刻はまだ昼を一刻過ぎたばかり。
僕は準備に没頭する振りをして猫耳娘の視線を避けた。




