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猫耳娘は腹が減る!!  作者: MOJO
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 トンキン旧市街にあるハーモニクス横丁。レア物の果実を扱う青果店や妖しげな肉を売る精肉店、自家製の違法酒を出す立呑屋に串焼きの店等、雑多な店がところ狭しと軒を連ねている。中には占いをする店もあった。

「ここには有名なフォーチュンテラーもいるけど、殆どが詐欺師みたいなもんさ」

 僕は苦笑しながら、小さな小窓からきらびやかな店内を興味津々に覗き見るミアに声を掛ける。

 占星術や天文学が魔術と大いに関わった時代はとっくに過ぎていたし、今や占いと云えば詐欺師の常套句にも成り下がっていたが、最近は若い者たちの間では遊びの一つとして流行っていたりもした。

「魔術師に成りきれない者が占い師に成ったりもするけど……そういやキミたち獣人の中にも占いが得意な種族がいたよなあ」

 羽妖族(はようぞく)蛟族(みずちぞく)といった精霊に近い種は優れた予知能力を持っていると聞く。どちらも絶滅危惧種で個体数は少なく、人里遠く隠れ棲んでいるので出会うことは非常に稀だ。出来ることなら会ってみたいものだけど。

「この奥にね、ハンターズギルドがある。今日はそこでミアのハンター登録を済ませてから帰ろう」

「仕事は……?」

「んー。何か良いのがあれば受注だけしとくかな」

 腰に短剣を下げ、小盾に軽装具という装いに整えたミアは心なしか顔付きが変わったようにも見える。

「馬子にも衣装……」

「……何?」

「いや、何でもないよ。じゃあ、入ろうか」

 総菜屋の角を曲がると、昼間でも薄暗い路地が現れる。その奇妙に曲がりくねった路地を数十メートルも進むと多少開けた場所にハンターズギルドは在る。

 この時間は扉は開け放たれている。建物の中には十数人のハンター達がテーブルに腰掛け酒を呑みながらカードに興じてたり、掲示板に貼り出された依頼書を吟味していたりした。

 受付カウンターの中に見知った顔を見付けて歩み寄る。

「あれ、リュウヤさん?」

「やあ」

「しばらくご無沙汰でしたね」

「セージちゃんも久方ぶり」

 短く刈り揃えた少し癖のある黒髪に、まだあどけないそばかす顔。小さな鼻の上に特徴的な大きな丸眼鏡を掛けた受付嬢が上目遣いに僕を睨んだ。

「ちゃん付けはやめて下さいって前から言ってるじゃないですか! これでもボク、もうとっくに成人してるんですから」

「だってセージちゃんがあんまり小ちゃくて可愛いからさー」

「リュウヤさん!」

「ゴメンゴメン。ところで、今日はこの娘のハンター登録をしてもらいたいんだ」

「まったく……あ、新規登録ですね。お名前をお聞かせ下さい」

 受付のセージ嬢は直ぐに仕事の顔になってミアに向き直った。

 ミアがおずおずと口を開く。

「……ミア」

 セージ嬢はニッコリと笑って登録用紙に日付けとミアの名前を書き入れた。

「ミアさん……っと。では、こちらの用紙に必要事項を記入して頂いて……後は犯罪歴がないか鑑定させて頂きます」

 ミアの代わりに僕が代筆をして必要事項を書き入れていく。

 ミアはセージ嬢に指示されるまま、受付カウンターの隅に立つ【真実の口】と云われる鑑定用の石像の口に手を差し入れた。しばらくして像の眼が青く光る。

「はい、確認致しました。ではこちらがミアさんのハンターカードになります」

 ミアは銀色のプレートに名前と登録番号が彫り込まれた小さなカードを受け取った。隅に小さな穴が開いていて、紐を通せば首に掛けることも出来る。

 頭の中の買い物リストに紐も加えて置く。

 手続きを終えたセージ嬢が眼鏡を鼻の上に押し上げて言った。

「さっそく何か依頼を受けていきますか?」

「うん、そのつもり。食い扶持が増えたんで稼がないとね」

「初めての方がいらっしゃるので説明させて頂きますね」

 セージ嬢は「コホン」とわざとらしい咳払いをして、何度も繰り返したであろうハンターズマニュアル的なヤツをそらんじ始めた。

「依頼はあちらの掲示板に貼り出されます。気に入った依頼をこちらのカウンターまでお持ち下されば、こちらで受領の簡単な手続きを致しまして、先ほどお渡ししたハンターカードに依頼毎に振られた番号が記載されます。依頼には期日がありますので、期日を過ぎないようにしてくださいね。あと、期日を過ぎた依頼は、たとえ完了していても依頼達成とならず、また報酬も出ませんので」

「依頼……報酬…」

「ええっと、ハンター登録はされたんですが、ミア様は個人の【所有物】となってますから、単独での依頼受領は出来ない決まりとなってます。必ず所有者様かパーティーでの依頼受領をお願いしますね」

「……分かった」

「それから、馴れない内は複数同時に依頼を受けない方が良いです。1つ依頼を完了したのに、2つめをこなしてる間にうっかり最初の依頼期日を過ぎてしまう、なんて事がままありますから」

「まあ、その辺は僕が気を付ける事にするよ」

 ミアの背中をポンと叩いて、僕はまだ何か話足りなそうな受付嬢の前から退散した。これ以上詰め込み過ぎると、情報過多でミアの頭がパンクしそうだったからね。


 掲示板の前に足を運ぶ。

 貼り出されてる依頼の数は平時より僅かに多い気もした。その幾つかは【防壁】関連のようだ。役所の仕事がこっちに廻ってくるなんて、よっぽど人材不足なのかな。

 隣で掲示板を眺めているミアは僕の視線に気が付くと恥ずかしそうに耳を伏せた。腰の辺りでフサフサの尻尾が別の生き物の様にうねっている。

 一見幼い成りに見えるけど、戦闘奴隷だったのだし、一通りの戦闘訓練は受けているだろう。獣人なら元々の身体能力は並の人間(ヒューム)より高い筈。それなら多少危険な依頼もこなせるかな。

 幾つかある依頼の中から1つを選んで手に取ってミアに向き直った。

「よし、これにしよう」

 依頼の紙を受付カウンターまで持っていく。

「ロックドードーの討伐の依頼ですね。畏まりました。ではカードに記載させて頂きます」

 カードを差し出し、期日の確認と魔物の出現場所を聞く。

 受付で依頼の説明を受けているとグゥゥとミアのお腹が鳴った。

「……お腹空いちゃったの?」

 コクンと頷くミア。

「これから夕飯の用意も面倒だし……しょうがない。連日だけど【バフォメットの嘶き亭】にでも行こうか」

 ミアが嬉しそうに尻尾を振っている。

 ヤバイな、マジで早く仕事しないと。食費で破産するなー。

 ハンターカードを受け取ると僕たちは食事を取りにギルドを後にした。

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