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猫耳娘は腹が減る!!  作者: MOJO
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「じゃあ、行こうか」

 主従契約を結び、たった今、僕の所有物となった獣人の娘を連れ立って僕はリサリサの店を後にした。

「さーて、まだ堕天の刻までには少し間があるけど」

 この娘の身の回り品を揃えなきゃだけど、時間も時間だし明日でもいいかなと考えていたら、隣からグゥゥと音がなった。獣娘がお腹を押さえて恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「……お腹空いてるみたいだね。じゃあ、取り敢えず、ご飯でも食べに行く?」

 獣娘は目を輝かせて小さく頷いた。


 もうじき堕天の刻を迎えるというのに酒場はそれなりの賑わいだった。

 酒好きのドワーフが経営する【バフォメットの(いなな)き亭】という名の酒場は、名物店主のせいで本来の名で呼ばれる事は実に稀だ。常連客からはヤスーダの酒場で通っている。

 その通り名の由来である店主のヤスーダがいつもの如くカウンターで酒樽を抱えて寝ているのを尻目に、馴染みの女給仕に手を上げて僕らは隅のテーブルに腰掛けた。

 周りを見ると武装している者が多い。その殆どが吉祥天使(ガーディアン)たちだ。【防壁】へと向かう前に腹に何か詰めに来たのだろう。

 女給仕が獣娘をチラリ見てメニューが要るかと訊ねてきた。

「いや大丈夫。僕はいつもので。えっと、キミは何が食べたい?」

「……肉」

 獣娘が口を開く。

「肉かあ。今日は何があるんだい?」

「そうっすね。今日は、と言うか、もう時間もアレなんで大して種類ないんすけど、肉料理ならキングボアのシチューかロックドードーのバター焼きとか」

「へえ、どっちも旨そうだけど、どうする?」

 グゥゥ。

 返事よりも先に獣娘の腹が鳴った。獣娘の顔が赤くなる。

「……じゃあ、両方持ってきて」

「ハイっすー」

 女給仕がバタバタと注文を入れに走って行った。

「さて……ところで、まだ名前を訊いてなかったね。なんて言うんだい?」

 僕はテーブルの向かいで落ち着かな気にしている獣娘に声をかけた。

「……ミア」

 獣娘、ミアは鼻をヒクヒクさせながら答えた。

 これは多分、厨房で調理している料理の匂いを嗅いでるのかも知れないな。

「ミア、か。種族は?」

「……猫人族」

 猫人族……ミア……キャット……ミーアキャット……いや、しかしミーアキャットて猫だったっけ?

「ご主人様、どうしたの……?」

「ん? ああ、いやいや! 何でもないよ」

 ミアが不思議そうな顔をしている。そんな感じで猫人族の獣娘ミアと戯れている間に頼んでいた料理がやって来た。

「はーい、こちらがオニイサンのいつもの。お嬢さんのはこっちね」

 料理を置いてテーブルを去ろうとする女給仕を呼び止めて追加のエールと水を頼む。

 グゥゥゥゥ!

 振り返ると、目の前に並べられた料理に待ちきれずにこれまで以上に豪快にミアの腹の虫が鳴った。

「じゃあ、食べようか」

 遠慮してなかなか食器を手にしないミアに何度も勧めてから、僕はようやく自分の料理に手を付けた。


「ふう、食べた食べた」

 僕は会計を済ませて席を立った。

 ミアも満足そうにお腹を撫でている。

「小さいのに、ずいぶん入るんだなぁ」

 そう言うとミアは恥ずかしそうに顔を伏せた。

「もう直ぐに堕天の刻になるから、急いで帰ろう」

 防壁の内側にいれば滅多な事ではモンスターに襲われたりはしないけど、それでも稀に【はぐれ】が出る事もある。僕はミアを急かして自分の家に戻った。


 翌日。

 昇天の刻をかなり過ぎて中天の刻に近い頃になり、僕はようやくベッドから這い出した。完全夜型の生活習慣にしてはかなりの早起きともいえるが、僕がアクビをしながら顔でも洗おうと立ち上がった時には、既にミアは着替えを済ませて部屋の隅で所在無げに膝を抱えていた。

「……ご主人様……お腹、」

 ミアのお腹がグゥゥと鳴った。

「うん、ちょっと待ってね。顔洗って着替えたら、何か作るからさ」

 顔を洗い、着替えを済ませてから僕は狭いキッチンに立った。スタンピッグの塩漬け肉を水で洗い、根菜類と一緒に煮込んで塩気を抜いた。灰汁を取り除き、沸騰した後は弱火に掛け、香草をちぎり入れて鍋の蓋をする。煮込んでいる間に戸棚から少し固くなったパンを取り出してナイフで皿に切り分ける。

 ミアが興味津々に料理する僕の横から覗き込んだ。

「もう少しだから、待ってね」

 僕は笑ってミアの頭を撫でた。


 食事が済むとミアを連れて買い物に出掛けた。先ずは馴染みの武器屋に向かう。

「この娘に合う武器が欲しいんだ。それと軽装具も一式」

「なんだ、お前さんのじゃなくて嬢ちゃんのか。昨日の今日で、てっきり気が変わったのかと思ったぜ」

 ガハハハと笑いながら、武器屋の店主は手早く幾つかの武器をカウンターに並べた。

「ショートスピア。コイツは魔術師が護身用に使ったりするもんだな。スモールシールドとセットにすりゃ、小型のモンスター相手なら前衛でもそこそこやれるぜ。んで、こっちのハンターボウは少しばかり腕力がいるが、貫通力もまあまああるし、小さいから狭いダンジョンの中でも使える」

「う~ん、悩ましいね」

 色々あるから迷ってしまう。基本、僕が前衛だとして、ミアに弓を持たせて後ろで援護してもらうか。それとも前に出て敵を錯乱させてもらうか。

「ミアは自分で使うなら、何がいい?」

 ミアは猫人族特有の耳をピクピクさせながらカウンターに並べられた武器を物色する。幾らか迷いつつ、一本の短剣を指差した。

「……これ」

 それは大人の肘の先ほどの長さがある片刃の短剣で、刃の中央部分から内側に湾曲していた。

「変わったナイフだな」

 僕はミアが選んだ短剣を手に取り、しげしげと眺めた。

「嬢ちゃん、なかなか面白いのに目を付けたな!」

 店主が先程よりも愉快そうにガハハハと笑った。

「そりゃあ、エアリアルナイフだ。柄のところに風魔石が付いてるだろ。それで軽量化と速度強化がされてる」

「魔石付きか」

「その変わった形状はククリナイフがベースになってるんだ。刺突には向いてないが、斧の様に振るう事も出来るし、投擲するにも適しているんだぜ。コイツを使いこなせるようになれば怖いもんなしさ!」

 魔石付きとなるとお値段の方が気になるというか、確実に予算オーバーな気がする。生命を最優先に考えれば、防具をケチるのは有り得ないしなあ。

 ミアの様子を見ると、僕から受け取ったエアリアルナイフを嬉しそうに振ったり眺めたりしている。こりゃあ、今さら無しとは言えないな。

 結局、それなりに軽くて丈夫な軽装具と小盾にエアリアルナイフを購入した。ホクホク顔の親父に暇を告げ、満足気にナイフを抱くミアを連れて店を出る。

「大幅に予算オーバーしちゃったな。鞄と携帯食料を買ったら、直ぐに仕事を見つけに行かないとね」

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