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鬼畜ハードモードにおける異世界トリップ生存戦略奮闘記  作者: 一色文目
第一章:万年無頼
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『侵蝕』

「ミシャー! すごい、すごぉい!」

「ッ、ティア、危ナイ、モット、ハナレテ!」

 おれの目線よりもはるか下にいるティアに、息も切れ切れに注意する。そんな近くに立ってロックルに蹴られでもしたらどうするんだ。

 おれは今、ロックルの背に乗っている。

 というのも、粗方畑仕事や村での生活を覚えたところで、ロックルに乗ってみないかとヘレナさんが言ったのだ。おれがこの村にやってきてから、二週間が経っていた。ちなみに、この村の名前はトグルの村というらしい。

 二週間のうちに、酷くカタコトではあるし、まだまだ知らない単語ばかりだけど、ある程度のところまでは言語力も上がったと思われる。未だに早く喋られたり、難しい言い回しをされたりすると理解できないレベルではあるが、それでも以前よりはティアとヘレナさんと意思の疎通がとれるようになってきた。

 ちなみに村人たちからは変わらず避けられている。すれ違ったり、ヘレナさんのお遣いをしたりするときには、なんとか「コンニチハ」と、声をかけて関係の改善を試みようとしてはいるものの、この村の性質として排他的なところがあるのか、村人たちは最低限の言葉を二、三寄越すだけで、こちらと深く関わろうとはしてこない。その対応には微妙に傷つくところではあるものの、まあ仕方ねぇと割り切れるくらいには自分の素性の怪しさについては理解しているつもりだ。

 もうひとり、村から遠巻きにされているらしいのが、あの村外れの爺さんだった。

 村人たちが彼を特別嫌悪しているわけではないらしいのだが、あの爺さんが変わり者で、どうにもおれ以外の人たちにもああいったぶっきらぼうな態度でいるため、村人たちは彼を少々苦手とし、用がなければ関わらないようにしているとのことだった。

 あの爺さんには息子がいたらしいが、十数年前に王国の兵隊が来て、彼の息子を連れて行ってしまったのだという。ヘレナさんは、王国の兵隊が彼の息子を連れて行ってしまった理由も話してくれていたと思われるのだが、残念ながらそこまでおれのヒアリング力と語彙力では理解することはできなかった。

 爺さんはそれ以来、あんな感じで他人と壁を作るようになってしまったのだと。

『本当は良い人なのよ? ロロだって、彼がくれたのよ』

 ヘレナさんは寂しそうにそう言っていた。

 ロローーというのは、ロックルのことである。そう、この村にやってきたあの日、おれのことを何故か暖めてくれていて、そしておれが今まさに乗っているロックルだ。ちなみにオスである。

「ロロ、ちょ、アバレナイ!」

 ぐるぐると同じ場所で回るロロの背をバシバシと叩く。今度はジャンプを始めやがった。コイツ遊んでやがるな。コノヤロウ。

 一昨日からロックルに乗る練習を始めたが、ようやく背にしがみついて落とされないで済むようになったのが今日の話である。

 初日なんて酷いものだった。

 ロロは背中に乗られるのが嫌いなのか、単純におれが気にくわないのか、乗ろうとすると、すぐに振り落とそうとしてくるのだ。おれは馬にも乗った経験なんてなかったので、この暴れ馬もとい暴れ鳥の背に乗るにはとてつもなく苦労した。

 今日こうして、どうにもめげないおれに、ようやくロロは背に乗ることを許してくれたらしいものの「お前の言う通りには動かんからな!」と、言わんばかりにクエクエ鳴いては落ち着きがない。

「ロロー、仲良クシヨウ」

 な? と言うように笑いかけるが、ロロはケッと言わんばかりにそっぽを向いた。そして背中から落とされるおれ。

「イタタタ……」

 ティアが腰を擦るおれをけらけらと笑っていた。


 ロロに乗って落ちる心配もなく、それなりに走らせることができるようになったのは、それから三日後のことだった。

 そうしてロックルに乗れるようになったおれは、ヘレナさんにひとつお遣いを頼まれた。

「山の麓で薬草を取ってきてほしいの」

「ヤクソウ?」

「そう、これよ」

 ヘレナさんが取り出したのは、おれの足の怪我に使ってくれた葉っぱだった。匂いを嗅げばミントのようなスゥッとした匂いが鼻についた。ひとつ受け取りポーチに入れる。ふむふむ、これと同じものを摘んでくればいいんだな。

 この村の西側には、大きな山脈がある。何度か村の男たちが、時に狩猟に、時に採取に出掛けていることはおれも知っていた。この村に来てから始めて外に出るので不安がないと言えば嘘になるが、山の麓までであれば、この村の十歳くらいの少年も、弓を携えてちょっとした狩や、薬草摘みに出掛けているくらいなので問題はないのだろう。

「念のため、これも持って行きなさい」

 そう言ってヘレナさんはおれに小型のナイフを渡した。

「アリガトウ」

 ナイフを受け取り、腰のベルトに突き刺す。

「ええー、私も行くぅ」

「ティアはダメ、危ナイ」

「むぅ……」

 拗ねるティアの頭を撫でる。

「いってらっしゃい、気をつけてね」

「……イッテキマス」



 先にも述べたが、山自体は徒歩でも行けるくらいでそう遠くはないのだが、せっかくロックルに乗れるようになったということもあり、ロロに乗って向かうことになった。その方が多く摘んで持って帰れるので、その方が良い。気分は初めてのお遣いである。

「ロロ、ココデ、オリルヨ」

 ロロを止めて、山の麓に降りる。

「えーと、たくさん生えてるみたいなこと言ってたけど……」

 ポーチから取り出した薬草を片手に辺りを見渡してみる。お目当ての薬草はすぐに見つかった。

「お、これか」

 薬草は結構たくさん群生しているようで、これなら採取に時間はかからなそうだ。

「ロロ、マッテテ」

「クエー」

「タベル、ダメ」

 変なもの食うなよ、と言いたいが「変なの」って何て言うのかわからん。伝わればいいのだが、まあロックルって結構賢い鳥らしいし、大丈夫かな。

 黙々と薬草を採取し、籠が半分になった辺りで太陽が真上に昇ってきたので、お昼休憩を取ることにする。ヘレナさんがお弁当を用意してくれた。中を開けてみるとサンドイッチだった。おいしそーう。

 地面に座って昼寝をしているロロに寄りかかって、サンドイッチを食べながらぼけーっと空を眺める。白い雲がゆっくりと空を漂っている。今日は風ひとつない。

「……?」

 やけに静かだな……村から出るとここまで静かに感じるものか。

 最後のひとくちを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼しつう、薬草の採取を再開する。じとりと、なんだか嫌な汗が出る。早く帰りたい。そんな気持ちに駆られて、乱暴に薬草を引っこ抜いていく。

 薬草が籠いっぱいになったのは日が沈み始める頃だった。

「うわ、意外と重いな……」

 籠を背負い、ロロにしゃがんでもらってから背に跨る。バランス取れるか不安になってきた。無様に背から落っこちて薬草をばら撒くという、とても残念な感じになるのだけは避けたい。

「ロロ、ユックリ」

「クエー……」

 情けねぇなと言わんばかりの声を上げると、ロロはゆっくりと走り出す。なんだかんだで言うことを聞くようになってくれたのは嬉しいばかりである。と、思っていたら急にスピードを上げた。

「うぇっ」

 危うく落ちかけ、寸でのところで体勢を整える。

「ど、ドウシタ!?」

「クエクエクエー!!」

 ロロの様子がおかしい。何だか必死に村を目指しているかのような。何かに追われているのか? そう思い、後ろを振り向こうとしたが、そのとき。

 ズドンーーと、大地が大きく揺れ、地鳴りが響いた。慌ててロロの首にしがみつく。

「な、なんだ……!?」

 地震か? ロロは今までにないスピードを出している。そのためまだ揺れ続けているのかはわからなかったが、何故だかとても嫌な予感がする。

 その嫌な予感はすぐに的中した。

 ーー村が黒い靄に覆われている。

「なんだ、あれ……」

 禍々しい空気に、脳裏にティアとヘレナさんの顔が浮かぶ。

「ロロ、ヤクソウイイ! ゼンリョク! ハシルッ!!」

「クエ!!」

 ロロはさらにスピードを上げ、全速力で駆け出した。

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