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王国の秘密  作者: ヒエログリフ
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後宮の中で

       テーベの広大な王宮殿の半ば近くを占めるのが後宮である。 広大な敷地には豪壮な建物が立ち並ぶ。 中庭に手入れのゆきとどいた広い庭園があり、花々が咲き乱れ男子禁制の後宮を彩るのであった。

    

    本日はファラオ御帰還の大切な日、王妃ネフェルタリ様を始め、ご側室様方は大勝利の凱旋の晩、ファラオのご寵愛を獲得しようと、必死の思いで画策するのであった。


    高位の女官達、高位の宦官達は早朝より会合を開き、御凱旋の目出度き晩の支度。  ファラオを今宵どの女性の寝台にお導きするのか、後宮にとって極めて重大な案件を真剣に討議するのであった。

  


   「極めて大切なる今宵、ファラオのお相手は王妃様こそ最適任かと?」と宦官の長は主張する。  宦官の長は、驚く程美しいネフェルタリ様を大変好ましく、大切に思っているのである。   「されど、この五年間。 王妃様はファラオのお渡りを、非常に数多く受けてまいられました、然るにいまだ御懐妊はございません。  僭越ながら、王妃様の御懐妊はやや難しいのでは?」と女官の一人が発言。  彼女は側室のメシェネト様の側近の女官であり、メシェネト様のもとにファラオを導く使命があるのだ。   「占星術士による観測ではオシリスはジュピターに近接̪してります。 これは御側室のティティ様あるいは、ヘヌート様に懐妊の可能性が高いと言う見立てでございます。 やはり、御懐妊の可能性が高い方にすべきでは」と宦官の一人が唱える。  「これまでも繰り返し懐妊の可能性を占い、ファラオを導いて来たではございませんか。 その決果は今だにどなたも懐妊されていない。 占いなど、あてになりませぬ。 ファラオも無理に導かれるのがお嫌なのではないでしょうか? お気持ちを重視し、ファラオが一番ご寵愛されてきた、王妃様が相応しいのでは?」と女官長。  反対意見は出ず、今宵は王妃様の寝室に導く事に決定する。  ただし、ファラオの強い御意思がある場合、別の方になるという可能性も残される。  

      王妃様或いは六名のご側室様の内の誰かと、必ず交わって頂くのが、後宮の絶対的意思なのである。 その為最近では必ず、ファラオがご休息の部屋の外には数人の女官がそっと控え、夜の行為を確認するのであった。 その報告内容により、ファラオはそれとなく、しかし厳しい言葉で叱責されるのであった。

     「ファラオ! 王朝の存続の為には、必ず必ず王妃様、御側室様のお体に御触れにならねばなりませぬ!!」と言う具合なのである。


    

     「なかなか御懐妊の吉報が聞けないのは、御側室様が少なすぎる事が主要因ではないかと。 ファラオももっと多数の女性の中から選択できれば、もっと積極的に夜のお努め果たされるのでは? 御側室様をもっともっと増やす事、肝要かと」

     「しかるに、ファラオはご側室様を立てる事あまりお喜びではないご様子。  無暗とご側室様を増やしても、ファラオのお気持ちは奮い立たないのでは?  我ら、ファラオの御気持ち奮い立たせる工夫を致さねば」  

     「そうしたお考えがあるから未だ御懐妊が達成されないのでは? ファラオには無理にでも数多くの御側室様と交わって頂かないと。 戦場であれ程の御働きをされたファラオ、後宮でもそのお力を発揮して頂かないと。 お世継ぎを儲ける事、ファラオの最大の役割、義務でございます!」

     「大体、女官達が、幼少時のファラオを甘やかし。 精強な男子として養育しなかっ事が、未だにご懐妊頂けない理由なのでは?」と一人の宦官。


     「それは、あまりに出過ぎた言い分。いくら何でも無礼ですぞ? ファラオは尊きお方、口を慎しむのじゃ!」女官長は宦官を叱責する。  

      


      御世継ぎが未だに不在の今、後宮の者達は、ファラオに兎にも角にも多くの女たちと交わりを持たせようと必死なのである。


     「イシスネフェルト様の件は?」 イシスネフェルトは、先のファラオ・セティー様と王妃のトゥーヤ様の御息女である。  つまり、現ファラオ・ラムセス様の同腹の御妹君である。  後宮でお生れになられ、現在も後宮で暮らされている。  御側室の一人に加えようという意見が、後宮の女官、宦官の間に広がっている。

     下エジプトの宰相ラーヘテプとアメン神官長バクエンコンスは「セティー様の御息女にして、現ファラオの同腹の妹君である、イシスネフェルト様を御側室と言うのは如何なものか? 第二王妃に即位して頂いては?」と言う意見を持つ。  しかし王妃ネフェルタリ様に近い立場の女官、宦官達はこれには強く反対するのであった。



     「肝心なのはファラオのお心でございますが。  昔から、イシスネフェルト様の事は、大変可愛がり、愛おしく思われている御様子がありありと伺えます。 しかし婚姻の話になると『妹を妻にするなぞ、あり得ぬ事!』などと拒絶的なお話をされます」   「未だに、王妃様もご側室様も、懐妊させられないファラオにそのような我がままを言う資格があるのでしょうか? 」     「言葉が、過ぎるぞ!!」 女官長は苦々しい、顔になる。


     お世継ぎの事になると、後宮の責任ある立場の者達は無我夢中になる。  生きた神であるファラオの権威さえ忘れ、この様な発言をすることさえあるのである。


     「ファラオご自身の御意思より、御世継ぎを儲ける事の方が重要では?  王朝の存続に関わるのです。 ファラオの同意がなくても、アメン大神殿にイシスネフェルト様をお連れして、婚姻の儀を執り行ってしまえば良いのでは。  第二王妃或いは御側室にしてしまえば、可愛い妹君でございます。  ファラオも喜んで、交わりを持たれるのでは?」  


     「十六歳になられた王女様は大変美しく成長された。  美貌で称えられた、母君トゥーヤ様にも劣らぬ程!!  あの母君に良く似た御妹様を妻にしてしまえば、ファラオも当然、御心を動かされることでしょう!」


     「古来ファラオの妻は、実の娘或いは同腹の兄妹が理想とされます。  イシスネフェルト様を娶わせる事、大変良いのでは?  ご懐妊も大いに期待できるのでは?」


      

      セテムを待ち受ける後宮はこうした極めて特殊な不思議なる世界なのである。


      今夜、ファラオとして後宮に入らねばならないセテムにはどの様な運命が待ち受けるのであろうか?



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