第16話 飛空艇の量産
リガリア王国に復帰し、クーリエ領の里帰りを終えた俺たちを待っていたのは飛空艇の量産事業だった。
エギル王太子はアカデミー所有のダンジョンの20階層にいるヘルファイヤー対策をやってくれていた。
リガリア騎士団の中から水氷魔法の適性のあるものを選び、ヘルファイヤーの炎を消すことに成功していた。
ヘルファイヤーの炎を消してしまえば、ガスだけが残る。
このガスをエルザに吸収してもらい、それを気嚢に集めていてくれたのだ。
おかげでヘルファイヤーを討伐することなく、簡単にヘリウムガスを集まられた。
すでに気嚢につめられていたヘルファイヤーのガスを、ハイジが一旦吸収してくれた。
それをマリーが水素ガスとヘリウムガスに分離してくれた。
俺はヘリウムガスだけを気嚢に戻すだけの作業だったのだ。
またすでにモーターや、プロペラなどの簡単な部品については、職人たちだけで製作できるようになっていた。
このため俺たちはアルミニウム合金製にする必要がある部品や、制御につかう電子部品のためのシリコン半導体などの特殊部品だけを製作した。
飛空艇に装着する無線機については、だんだん数も増えてきたことから、複数の周波数チャンネルを使い分けられるようにした。
さらに変調方式を暗号化して、簡単に傍受することができないように対策もとった。
こうして一気に5機の飛空艇がリガリア王国に誕生した。基本の性能は2号機とほぼ同じであるが、制御系を改良したので、安全性は少し向上しただろう。
俺とマリー、エレーヌとハンナの結婚を通じて、リガリア王国とフルショア公国との間はとても友好的な関係になっている。
クーリエーヌや、クーリエ・ド・カシス、発電機など、相互に輸出入を行っている産品も多くなってきている。
リガリア王都とクーリエ領。フルショアとクフクラ、プハラに加えて、途中のゲルマン諸国やアルプ王国の中でいくつかの大都市を経由した定期飛行ルートが設定されることになった。
定期飛行ルートに合わせて、電波灯台の整備も行った。
電波灯台は飛空艇が自分の位置を電波で知ることができるものだ。
船の灯台が光で陸の位置を知らせているように、電波灯台は電波を出して、飛空艇に位置を知らせてくれる。
指向性を持ったアンテナを使用することで、飛空艇の中で電波灯台の方向を見定めることができるのだ。
電波灯台のおかげで雲の中に入っていても飛空艇は方向を見失うことなく飛ぶことができる。
複数の電波灯台を順番に見つけていくことで、確実に定期ルートを外れることなく安全に飛行ができるようになった。
また電波を利用した高度計を飛空艇に搭載した。
地上に向かって電波を発信し、地上に反射して帰ってくるまでの時間を計測することで地上までの距離を簡単に計測できるのだ。
雲の中に入っていると自分の高度がわからなくなってしまう。
簡単な気圧高度計はあるのだが、山岳地帯では大きく気圧が変わることが多く、同じ高度で飛んでいても気圧高度計では高さが変わったように表示されてしまう。
この世界では地図で正確な標高を知ることができないので、これまではなるべく平野部だけを飛行するようにして、標高に対して十分に余裕を持って飛ぶことしかできなかったが、電波高度計の搭載で、山岳地帯の多いアルプ王国を超えての飛行ルートも設定することができるようになった。
そもそも飛空艇は前世の飛行機に比べると強い風や、雨の時にはなかなか飛行自体が難しいのだが、それでも電波灯台と電波高度計のおかげで就航率は大きく向上したのだった。
おかげで益々人や物の行き来が活発になった。
マリーやエレーヌがちょっと里帰りをするといった際にも簡単に往復できるようになった。
定期飛行ルートが設定されたことで、飛空艇にはキャビン・アテンダントが乗務するようになった。
マリーは応募すると言って聞かなかったが、さすがに王族にサービス業をさせるわけにはいかず、マリーは採用してもらえなかった。
まだまだ空の旅は危険でもあるので、俺はマリーの不採用にほっとしたのだが、一応マリーの前では残念そうな顔をしておいた。
飛空艇の数が増えたことで、より多くの人が飛空艇を利用できるようになった。
そのおかげで飛空艇の料金が少し安くなった。
安くなった料金のおかげで、貴族以外の人たちでも空の旅を楽しめるようになってきた。
現世のように海外旅行に誰もが当たり前に行くことができるようになるにはまだまだ時間が必要だろう。
でもいつかはそうしたいなと思った。
次は飛行機を作ってみるかな。
本話にて第4章が終了しました。
閑話を4つと、第4章の人物紹介を挟んでから、ベクトル教授の引退宣言から始まる第5章に突入します。閑話と人物紹介は土日に一気にアップします
ぜひとも楽しみにしていてくださいませ