第13話 ピーター様とマリー様-シモン視点
ピーター様とマリー様が私の経営するジグムントという宿屋に宿泊をされるために来られたのは後継者戦争が終わって2カ月ほどたった秋の始めだった
ピーター様はこの街の近くでとれるカシスの実を収穫したいとの事で、人手が欲しいとの事だった。
この街には特に産業というものがなく、若い者は王都などに働き口を求めて出ていってしまう。
人手はあまり多くはないが、カシスを積むだけならば女子供でもできるだろうと、近隣の村の娘子供を集めて、カシスの収穫をさせた。
しかしあんな酸っぱくて苦みの多い野草の実を集めて、何をするつもりなんだと私は思っていた。
そもそもこのピーターという男、フルショア公国民ならば誰もが憧れるマリー様を嫁にするなどというけしからん奴だと思っていた。
私もこんなちんけな町など捨てて、旅に出て、大成功を収めていれば、マリー様を嫁にすることができたのではないか。
こんなちんけな宿の主人などではなく、もっと別の人生があったのではないかと思うことが多い。
しかしこの浅はかな考えはマリー様の話を聞いて吹き飛んだ。
なんとあのフルショアの守り石を破壊したのはピーター様であるというのだ。
そればかりか、ダニエル王子の暗殺部隊1000人を、一瞬のうちに惨殺した風の悪魔もピーター様であるというのだ。
私はなんと恐ろしい相手に悪態をついていたのだろう。
一瞬でこの首がもぎ取られていてもおかしくなかったと思うと、膝が震えてきた。
しかしピーター様はこんな私にも丁寧な言葉づかいで、私の協力を褒めてくださった。
私はピーター様とマリー様に何ができるだろうか?
ピーター様とマリー様が泊まってくださるこのジグムントが薄汚れていたら、ピーター様やマリー様が笑われてしまうではないか。
私はすべての使用人にその話をした。
まずは自らが率先してジグムントを磨き上げた。
みんな私と同じ気持ちになってくれた。
いつしかジグムントはいつでもピカピカに磨き上げられた宿屋になっていた。
私はマリー様とお話をさせていただくのが、毎日幸せでならない。
それは私だけでなく、ジグムントの従業員たちも同じであった。
なんとかマリー様がお喜びになることをみんなで探した。
マリー様はいつもピーター様の事を考えておられた。
ピーター様はとにかくお仕事が大好きで、仕事をしていると他の事があまり気にならない性格らしい。
そんなピーター様の健康のことをマリー様はとても気にされていて、脂っこいものや、塩気の強いものは気を付けて欲しいとお願いされた。
私はすぐにコックにマリー様とピーター様のお口にあう食事をだすように指示をした。しかしコックは自分の味付けに自信があったみたいで、言う事を聞いてくれなかった。
私はすぐにコックの首をすげ替え、新しいコックと二人で様々な料理を新しく作ることにした。
マリー様は新しい料理や、お菓子を召し上がることが大好きな方だったので、私たちはたくさんの料理をマリー様に味見していただいた。
その話を聞きつけた近隣の宿屋や、料理屋、さらには料理自慢の主婦までが、どんどんマリー様に味見をしてもらいに、料理を持ってくるようになってしまった。
このままではマリー様が太ってしまわれるのではないか。
私は町長としての権限で、マリー様を審査員として正式なコンテストを開催することを発案した。
マリー様に自分の作ったものを食べていただけるというのは、ただそれだけで名誉なことなのだ。
皆が競うように良いものを作ろうと努力を始めた。最初のコンテストはピーター様が新しく開発されたカシスのリキュールだ。
カシスはこのあたりの森に行けばどこにでもなっている実だ。
カシスの実を漬け込むためのスピリッツというアルコールはピーター様が提供してくださった。
カシスリキュールはこのスピリッツにカシスと少量の砂糖を入れて、カシスの実の味と香りをスピリッツに十分にしみこませた後に、不要の実や種を取り出すだけで良いので、各家庭で作ることができるものだ。
各家庭では基本の作り方に加えて、少量の香辛料を混ぜたり、カシスの粉砕方法にこだわったり、様々な独自性をだすことで、最もおいしいとマリー様に言ってもらうための努力を重ねた。
そうして一番美味しいとマリー様が言ってくださったリキュールは、ピーター様によって瓶に詰められ、クーリエ・ド・カシスの名前を冠して販売してもらえるとの事だった。
今更ながらピーター様の本当の名が、ピーター・クーリエであることを知った。
あの発砲ワインのクーリエーヌや、高級ブランデーのコニャックを生み出したクーリエ家であったのだ。
カシスリキュールコンテストは大きな話題を呼び、近隣の街からだけでなく、遠くはリガリアからも見物客がやってきた。
おかげで我がジグムントだけでなく、クフクラの宿屋はどこも満員御礼の状態になった。
コンテストに続いて、マリー様が提案された少年少女劇団、少年少女合唱団も、クフクラの名物となり、多くの観光客がクフクラを訪れることになった。
私は町長として、この街にマリー様とピーター様の銅像を建てることを提案した。町に住むすべての者が大賛成だった。
もう成長してクフクラを旅立とうとする子供はいない。
むしろクフクラを目指して人は集まってくるようになった。
クフクラは夢と希望にあふれた街で、私はその街の町長なのだから。
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