第11話 マリーと宿屋の親父
フルショア公国南部の街クフクラに立ち寄った時に、俺が森でカシスの実がなっているのを見つけたことで、この街に長逗留をすることになった。
クフクラで宿屋を探したが、どこも薄汚い宿ばかりで選択肢がなかった。しかたなくジグムントという名の宿にしばらく泊まることになった。
この宿の主であるシモンは宿と同じで薄汚れた男だった。
シモンは俺たちを胡散臭げな眼で見て、ハズレの客が来たことの文句を使用人にグチグチと言っていた。
使用人も目が死んだようで、シモンに言われたことを嫌々やっている感じだった。
この宿に泊まっている期間、俺はカシスの収穫を、人を集めて行う必要があったので、マリーをかなりの時間、宿でほったらかしにせざるを得なかった。
こんな陰気なところにマリーを一人で置いておくことにかなり抵抗があったが、いつの間にか宿屋の主であるシモンは、マリーと親しく会話をしているようであった。
俺とマリーは毎日夕食の時間に、その日にあったことをお互いに話すようにしていた。
この宿屋の飯はフルショアでは定番のライ麦パンに、ソーセージのスープ、ザワークラフトなどが出てきていたが、俺とマリーにはやたら脂っこく、塩味が強いものだった。
マリーが話す話の中には、よくシモンの名前が登場していた。
シモンはこの町の町長もしているので、俺も人手を集める際に力を借りており、俺とマリーの共通の話題として、ちょうど良かったのかも知れない。
このシモンが随分とマリーの事を気に入ってくれたようだ。
俺としてはマリーがあらゆる人から愛されるのは当たり前という気分なんだが、マリーとしては自分の事を好きになってくれる人というのは貴重に感じているみたいだった。
今日はシモンが宿の使用人たちに、宿の掃除を今までよりもしっかりやるように言って、自らマリーの部屋の掃除をしていたとか。
シモンが退屈しているマリーに何か面白いものを見せるために、町の子供たちと一緒になって、劇をやるんだと、劇団を作って、お芝居の稽古を始めたので、そのお稽古を見るのが楽しいとか。
俺が収穫してきたカシスを、スピリタスに漬け込んでつくるカシスリキュールを、各家庭で独自の味で作ってもらい、誰が一番美味しいカシスリキュールを作れるかを決めるコンテストをすることになったとか。
さらにはカシスリキュールを混ぜ込んだお菓子のコンテストで、マリーも参加することになったとか。
いつのまにかシモンとマリーはすっかり友達になって、色々な企画を一緒にやっていて、この町での暮らしを楽しんでいるようだった。
カシスリキュールのための瓶の製作や、ラベルの印刷、瓶詰、出荷など、俺の方でも色々と人手が必要だったので、シモンにはすごく助けてもらっていたし、マリーの方もシモンが大好きだって言っていた。
俺たちが最初に逗留を始めた時、クフクラの街はどこか薄汚い、活気のない街であったが、いつの間にかこの街はたくさんの人が訪れ、活気に満ちた街へと変貌を遂げていった。
俺たちが泊まっている宿のジグムントは常に塵一つなく綺麗に磨き上げられ、夕食もいつの間にか美味しい、美味しいとマリーが大喜びで食べるのが当たり前になっていた。
俺はマリーが食事をしているのを見るのが大好きだ。
そして今日もマリーはシモンと何をして楽しんだのかを語ってくれる。
シモン、いつもマリーを楽しませてくれてありがとう。
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