第10話 復興事業
俺はアダム王子からフルショア公国の復興に力を貸して欲しいと頼まれた。
すでにエレーヌがハンナと結婚し、フルショアの内政担当として、リガリア王国の優れた制度や、技術をフルショアに提供し始めている。
フルショアに足りないのはその改革を推し進めるための資本だ。
俺は膨大な借金を背負ってしまったクーリエ領を特産のワインで救った過去がある。
俺は早速フルショア公国の様々な場所をマリーと共に見て回った。
フルショアの特産物を見つけて、それで財政再建を目指すのが目的だ。
しかし俺たち夫婦にとってはこの旅行は新婚旅行のような日々だった。
フルショア公国の国民はマリーの事を愛してくれていた。そしてマリーの夫となった俺も、後継者戦争の英雄の一人として慕ってくれた。
行く先々で俺たちは大歓迎を受けた。
フルショアは貧しい国だった。北部には海があり、漁業が中心で、寒村がつづいていた。北の海は荒れることが多く、安定した収入は難しかった。
北の海からは年中強い西風が吹いていた。俺はこの風を利用して風力発電を行うことにした。
特に強風が吹き荒れて漁に出ることができない冬場に、発電で稼げるのは、海岸地域の現金収入向上には大きいと見込んだのだ。
風力発電の装置はリガリアに発注して作ってもらったが、徐々にはフルショアで自力で作れるようにこれから産業を育てていく必要があるだろう。
中部から東部にかけては平野部が広がっていたが、冷涼な気候のためにライ麦が栽培されている程度であった。
南西部は高い山脈があり、山脈の麓には黒すぐりという低木が多く生えていた。
この黒すぐりは英名ブラックカラント、仏名だとカシスといえばわかるだろうか?
果実は黒に近い濃い紫色でビタミンCやアントシアニンが豊富な果実だ。
俺はこのライ麦とカシスをフルショア中東部の特産品とする事を考えた。
まずはライ麦を発芽させてから乾燥したものを作ってもらい、それをハイジに取り込んでもらってから、水で煮出した後に、酵母で発酵をさせた。
アルコール発酵が進んだものを、いつものように蒸留して、オークの樽に詰めて熟成させるのである。
今回はあらかじめオークの樽の内側は火魔法で軽く焼いておいてもらった。
これはライ麦ウィスキーだ。
俺は現世でワイルドターキーというバーボンウィスキーを好んで飲んでいたが、ワイルドターキーにはライ麦を使用したものがあったのを覚えていたのである。
ライ麦ウィスキーは小麦を使ったウィスキーよりもワイルドで、通には堪えられない味わいになるのだ。
スライムの泉のように年中同じ気温で湿気の多い洞窟を探してもらい、貯蔵庫を建設してもらった。
ライ麦を使ったウィスキーとは別に、ハイジに頼んでほとんど完全なエチルアルコールになるまで蒸留をしたものも作ってもらった。こちらの味わいはそれほど重要ではないので、ライ麦の他にジャガイモなども原料として使ってみた。
このエチルアルコールにはスピリタスと名付け、各家庭に配ってカシスの実を入れてもらい、果実を砕いて漬け込んでもらった。
漬け込むときに少しの砂糖を加えると、苦味が中和される。
こちらはカシスのリキュールだ。
現世では原液を炭酸水で割ったものがカシスソーダ、オレンジジュースで割ったものがカシスオレンジという名前のカクテルとして売られている。
これまではライ麦は硬くって酸っぱいライ麦パン(黒パン)としてしか使われていなかったし、カシスは野生で生えていたのに、全く利用されていなかった。
それらが外貨獲得可能なフルショア公国の特産品となった。
長期熟成が必要なライ麦ウィスキーは後回しにして、まずはすぐに出荷可能なカシスリキュールを飛空挺に積み込んで、リガリア王国に出荷してみた。
いつものようにハイジの絵が入ったラベルをつけた瓶に、クーリエ・ド・カシスの名を刻んだ。
すでにクーリエの名はリガリアでは有名だからね。
クーリエの作った新しいお酒として、フルショアのカシスリキュールを使ったカクテルは女性を中心に大流行する事になった。
ライ麦ウィスキーの登場には少しの間、熟成のための時間が必要であったが、約2年が経過してから出荷が始まった。
ライ麦ウィスキーは男性向けのワイルドでハードなテイストが根強いファンを獲得し、フルショア公国の財政健全化に大きく寄与して行く事になった。
ちなみに試作品の蒸留は俺とハイジだけで行ったが、蒸留酒作りのための蒸留装置をリガリアのエリックの工房に発注した。
ライ麦ウィスキーに使用する蒸留器はブランデーと同じく単式蒸留器だが、銅製のポットスチルを使った蒸留器を作ってもらった。
今回はさらにリキュールの抽出のために使用する、強度のアルコール濃度のスピリッツ用は連続式蒸留器を開発してもらった。
連続式蒸留器は単式蒸留器に比べるとアルコール度数があがる。ただその分アルコール以外の複雑な成分や原料のもつ香りや、味わいが蒸留酒に引き継がれない。
連続式蒸留器について、俺は前世の記憶にあったカフェ式連続蒸留器を再現してもらった。
たしか朝の連続テレビ小説○っさんで有名なニ○カウィスキーの工場見学に行ったときに見せてもらったものだ。
連続式蒸留器ではあるものの、柔らかな風合いのある蒸留酒が生成できるのだとガイドさんに教えてもらったことを思い出した。
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