第6話 ダミアン戦-ハンナ視点
ピーターとのタンデムスカイダイビングは驚愕の体験だった。
あれほどの上空から、ただ飛び降りるなど、死以外に考えられない。
それをいとも簡単に成功させるピーターの魔法は凄い。凄すぎる。
ピーターはその後すぐにフルショアの守り石を一瞬で砕いてみせた。
過去にあらゆる敵をも跳ね返してきた、フルショア最大の防御壁をである。
大混乱となったフルショア王都。あっちでもこっちでも市民とダミアンの私兵との戦いが起きていた。
そんな喧騒の中、私はビチック家の王都私邸に向かった。
狙うのは兄ダミアンだ。
奴だけはなんとしても自分の力で殺したかった。
あの兄の性格はよく知っている。絶対に表には出ず、自分は安全な場所に身を隠しているだろう。
ビチック家の私邸にはそういう隠れ場所がある。
さらに危険な状況になれば、あの男はビチック領に逃げてしまうだろう。
だからこの手であの男を殺すのは、今まさにこの時しかない。
あの男は誰も信用しない。
きっと一人で隠れているはずだ。
思った通り、ダミアンの護衛は手薄だった。あの男は自分を護る護衛すら信用できないのだろう。
一つの隠し部屋を暴いた時、私はついにあの男を見つけた。
「ハンナ、おーハンナ戻ってきたんだね」
「ダミアン、ええ、お前を殺すためにね」
「ははは、ハンナが僕を殺すって。犬っころが貴族様に何を言っている」
「お前の様にコソコソと逃げ回っているような奴が貴族様なのか?」
「馬鹿なハンナ。僕はね。弱いから身を隠しているんじゃないんだよ
いやむしろ強すぎるから、今まで自分の力を隠していただけなのさ」
「ふん、口では何とでも言える。貴族なら剣で語れ!」
ダミアンとハンナの剣は打ち合わされた。
互いに闇魔法を使って、動いては消え、そして再び現れて剣を討ちふるいあうといった姿が断続しつつ、剣戟は止むことがなく続いた。
幾度となくダミアンに叩き付けられるハンナの剣。
その切っ先をさらりと払い、ダミアンがハンナに反撃する。
ハンナの長い髪にダミアンの剣がかすり、ハンナの髪の一部が断ち切られた。
「く、ダミアン、これほどの腕とは」
「へー、ハンナもやるじゃないか。ノラ犬のくせに」
二人の剣戟はほぼ互角であった。しかし徐々に私の動きが落ちていった。
感覚がどんどん鈍くなっていく。
なんとかダミアンの剣を躱すのが精いっぱいになってきた。
「ダミアン、剣に何か塗っていたな」
「違うよハンナ、この部屋にはあらかじめ罠があちこちに仕掛けてあったのさ。
けっこう強力なシビレ薬だったんだけどね。
やっと効いてきたかい。
もしかして犬には効かないかと焦ったよ」
隠し部屋の中には闇魔法で見えないように偽装されたピアノ線のような細い糸に、シビレ薬が塗られたものが張ってあったようだ。
「相変わらず、汚い男だ」
「綺麗とか汚いってのは何だい?」
私の身体の自由はほぼ失われてきていた。
あわあわと口は動くが、ダミアンの足元に膝をつき、両手で身体を支えながら、ダミアンを下から睨みつける事しか出来なくなっていった。
ダミアンは私を蹴り飛ばし、私の胸に自分の足を乗せ、私の豊かな胸の膨らみを足の裏で強く踏み潰した。
「昔はチビでガリガリの痩せ犬だったが、結構、結構。たいそう膨らませたじゃないか?
幼い頃から父上に色々と教えられていた裏技は、健在のようだな。
リガリアでもその技で男をたらし込んだのか?
そうだ、これからは俺のペットとして、ビチック領で飼ってやろうか。
ほれ、良い声で鳴くが良い」
「お前の慰めものになるくらいなら、死んだ方がマシだ。さあ殺せ!」
「俺はな、そういうお前の顔を見るのが大好きなんだよ。
小さな時から、お前が父上に玩具にされているのを見るのが大好きだったんだ。
全くお前は最高の玩具だ。
これから俺はビチック領に戻る。
ビチック領に戻ればまだまだ戦えるからな。
アダム王子の戦力などしょせんは寄せ集め。
せっかくだからお前も連れて行ってやるよ。
今度は俺の玩具としてな。
やっぱり玩具はしっかり使い込まないとな」
そう言ったダミアンの首がすとんと落ち、ダミアンの身体から血しぶきが吹き上げた。
「悪いな、ハンナ。
あんまりにもクソ野郎だったんで、一気に首をもいじゃったよ」
そう言いながら現れたのはピーターだった。
「すまない、ピーター。
もう身体が全く動かないんだよ」
「ごめんな、ハンナ。
ハンナ自身が奴を倒したいだろうなと思ったんだけどね」
「ありがとう、ピーター。
気を使ってくれて。
ピーターと私はあの時一つになった。
だからピーターが殺してくれたのならば、私が倒したのと同じだ」
「おいおい、誤解を招く表現だなあ」
「あの飛空挺からのダイブはそれほどまでに衝撃的だったよ。
まあピーターにとってはマリー様を助けるためにやったことだ。
それはマリー様が私を助けて下さったってことと同じだろう」
「ハンナはいつもマリー中心でブレないね
それじゃあマリーを呼んで、ハンナの毒を抜いてもらおう」
ピーターは私を抱き上げてそう言った。
お姫様抱っこって奴だ。
今まで一度もそんなことをされたことはなかったが、ピーターならば構わないと思えたのは不思議な感覚だった。
こうしてハンナの戦いは決着をみたのであった。
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