第2話 アダム王子襲撃事件と風の悪魔
ダニエルとダミアンは焦っていた。
父大公の死のあと、いち早く次期大公の宣言を行い、アダム王子を捕らえて幽閉する計画だったのだが、アダム王子を取り逃がしてしまうという失態を演じてしまった。
さらにはアダム王子にノヴァック領プハラに逃げ込まれてしまうという事態に陥ってしまった。
プハラは天然の要害であり、山越えを行わなければならないため、攻めるには大きな兵力を必要としてしまう。
このため住民から税を取り立て、兵力増強の準備をした。
それとは別にアダム王子の暗殺のための襲撃隊を用意した。
アダム王子の襲撃に使うのはダミアンの私兵の中から、その凶悪さで恐れられている精鋭中の精鋭を約300人だ。
ノヴァック領は山脈に囲まれた地であり、肥沃な川のほとりにあるとはいえ、それほどの大兵力を集められる場所ではない。
また元々の要害の地形に甘えて、都市の防衛機能の主たるべき存在である防壁もきちんと整備されていないような都市である。
むしろ襲撃隊による奇襲によって、アダム王子のみを暗殺してしまう方が、大兵力を使うよりも効果的だろう。
そういう訳で、アダム王子襲撃隊は闇に紛れて、プハラを目指した。
この襲撃を予め予想していたのが、リガリア王国の頭脳であるエドガーだ。
彼は単なる酒飲みではなかったのである。
奇襲であれば、ピーター一人でなんとかなるということで、マリーとハンナとピーターだけが先行でプハラに到着したのであった。
実際300人のアダム王子襲撃隊がプハラにあるアダム王子の宿泊所を襲ったとき、アダム王子の護衛は30人ほどしかいなかった。
もしもこの時、ピーターが到着していなければ、アダム王子はすでにこの世のものではなかっただろう。
しかしピーターはアダム王子の宿泊所の玄関にたった一人で立っていた。
襲撃隊はピーターがそこにいることに気がついていたが、ピーターの本当の恐ろしさを全く知らなかった。
このため一斉にピーターに攻めかかるため、ピーターに群がるように取り囲んでしまった。
ピーターは敵の攻めを無効化するために、自分の周りに圧縮した空気を集めていた。
そうすることで中の空気と外の空気の圧力差で、弓の攻撃や、火魔法などの遠距離の攻撃がほとんど通用しなくなるためである。
そうしておいて、さらにその外側の空気を一気に拡散魔法で外に押し出して、ものすごい勢いで広範囲に気圧を低下させた。
ピーターが圧縮・膨張魔法を使うことができる範囲は、アカデミー入学の頃で直径20メートル程度であった。
入学して3年余りがたち、大人として完全に成長した男になったピーター。
さらにはアカデミーでの魔法を使った実験三昧や、ダンジョン探索などでの魔法の使用を通じて、今ではその有効範囲は直径300メートル程度に拡大していたのである。
ピーターを一人だとなめきって、その周りを取り囲んでいた襲撃隊は、大きく気圧がさがったことで、まずは耳の鼓膜がそとに吹っ飛んでしまった。
よく飛行機に乗って離陸後に耳が痛くなることがあるだろう。
急激に気圧が下がると、耳の中から鼓膜を押している圧力と、耳の外側から鼓膜を押す圧力に差ができて、鼓膜が一方に押されることによって発生する痛みだ。
鼻を少しつまんで、息を耳に当てるようにすることで、耳の内部の圧力調整をして、外と中の圧力差をなくすようにすれば、痛みを避けることができる。
唾を飲み込むことでも同様の調整ができることもある。
しかしピーターがやった気圧低下はそのような調整をすることができないほどの過酷な気圧低下であった。
このため体の内部からの圧力で、襲撃隊の耳の鼓膜はすべてはじけ飛んだのであった。
さらに気圧低下は続き、次には眼圧で目が飛び出るような痛みにさらされた。襲撃隊は痛みに苦しみ全く動くことができなくなった。
さらなる気圧低下は呼吸不能への道であった。すでに空気は通常の1/3以下となり、エベレストの頂上付近の様をなしていた。
ピーターの周囲はすでに酸素ボンベなしでは生きることが不可能な世界であった。
そうして襲撃隊300人はそのまま息絶えた。
かろうじて襲撃に加わることなく、外側で指示をだしていた指揮官一人だけが、生き残った。
ピーターが拡散魔法を解いて、周囲の気圧低下を通常状態に回復するために引き起こされた暴風が過ぎ去った後、彼はすべての襲撃隊員が息絶えている状況を見た。
全ての遺体は耳から血を流し、目玉が外に飛び出し、苦痛にゆがんだ表情をしていた。
しかしそれ以外に身体には全く外傷がなかった。
生き延びた指揮官によって、ピーターが風の悪魔であるとの情報がフルショアに持ち帰えられた。
こうしてフルショア公国後継戦争の最初の戦いはピーターの圧勝で始まった。
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