閑話2 ピーター様とwin-win-エリック視点
あっしはリガリア王都のケルトンの職人街で職人のはしくれをしているエリックと申します。
最近はピーター様というパトロンがついて、職人街では飛ぶ鳥を落とす勢いの職人だと言われています。
ピーター様には銅の細い線を作ってくれと言われたのが最初の出会いでした。
元々銅の加工をするのが自分の仕事だったのですが、銅をそれほど細く加工をするようなことは初めてでした。
細く加工をしようとすると、そのままの銅のままでは切れやすくなってしまうので、銅に色々と他の素材を混ぜてみて、細く加工しやすい合金にしてから引き延ばしました。
ピーター様に出来上がった銅線をお渡しすると、大変喜んでくださったのですが、さらに外皮をつけて欲しいとお願いされ、その後も様々な無茶ぶりとも思える注文が連続する毎日でした。
いつもピーター様の注文にお応えできるように頑張ってきていたのですが、ついにどうしようもなくなってしまい、今回はピーター様に泣きついてしまいました。
ピーター様に泣きついたのは荷馬車の件です。
最近ピーター様に頼まれたものが多すぎて、工房の荷馬車が潰れてしまいました。
銅線だけでもかなりの重量を頼まれている上に、最近はアルミニウムの鉱石や、シリコンのための岩石を大量に発注されて、それらの重量物を運ぶのに苦労をしていましたが、とうとう荷馬車が壊れてしまって、動かくなくなってしまいました。
荷馬車で壊れやすいのは車軸と車輪をつないでいる場所です。
ピーター様は今の馬車には足回りに簡易なバネがついているだけだから、その部分にボールベアリングとダンパーをつけてやれば、回転の抵抗を小さくしつつ、悪路等での破損を減らすことができるとおっしゃいました。
ボールベアリングとは玉軸受とも呼ばれ、軸受の可動部品間を、玉を使って分離する転がり軸受の一種だそうです。
玉の素材としてはとにかく固いものが良く、ちょうど最近はシリコンを大量生産しているので、窒化ケイ素、つまりはセラミックボールを使ったものを作ってくださいました。
ピーター様に手渡されたセラミックボールは磁器のような素材でしたが、鉄でできたものよりも固く思われました。さらにはその軽さに驚きました。
ピーター様はボールベアリングを作る上で最重要なのはボールが完全な球であることで、簡単に変形してしまってはダメなので、硬い素材であることも重要なのだと教えてくださいました。
セラミックボール自体は簡単には作れないので、すべてピーター様がお作りになって、あっしはもらったボールを完璧な球になるまで研磨させてもらいました。
加えてピーター様からはボールを受ける軸受部分や、馬車の車輪に取り付ける軸の部分を玉の大きさに合わせて作るように指示をいただきました。
ボールの大きさにちょうどあう大きさに軸受を仕上げて、完璧に磨き上げました。
おかげで動作試験では何の抵抗もなく、ボールベアリングは長時間作動し続けることができました。
次はダンパーです。
荷馬車に縦軸でかかるショックを軽減するために用いられるもので、これまでは金属製のバネが使われていました。
ピーター様がサンプルとして持ってきてくださった伸縮式のシリンダーダンパーですが、金属製の筒の中にオイルとガスが封入されていて、強い力がかかった時にゆっくりと動いて、力を逃がすようにする構造になっていました。
ピーター様が言うには、縦軸にショックがかかってしまうと、ボールが変形したり、悪い時には割れてしまうので、かならずボールへのショックを軽減するものが必要なのだそうです。
サンプルは圧縮、膨張が得意なピーター様と、ガス封入が得意なハイジ様と、成分調整が得意なマリー様の合作だそうで、かなり複雑な構造のものでしたが、できる範囲で簡素化させていただき、工房で量産体制を整えました。
これまでも銅合金や、アルミニウム合金など、様々な素材の加工を一手に引き受けてきた技術の蓄積があったからできたことでしょう。
特にうちの工房全体の力量もアップしてきているのが大きくて、最近のピーター様のご注文が自分一人でできる仕事量ではないので、たくさんの職人があっしの仕事を分担してやってくれていたのが大きかったみたいです。
工房の技術レベルがあがれば、ピーター様はさらなる技術提供が可能になるとおっしゃってくださいました。
ちょっと前に提供いただいたシャンプーとリンスのレシピや、ドライヤーの製造法などもうちの工房以外の懇意にしている工房に紹介させていただきました。
ピーター様がクーリエ領で作られたビキニっていう水着も、王都の織物工房に紹介させていただきました。ファッション業界からもピーター様の動向に注目が集まってきています。
それらの工房からピーター様に直接品物を提供することで、これまであっしが手掛けてきた金属加工以外の工房とのつながりも増えて、それがさらなる相乗効果を発揮してきています。
ピーター様から我々はwin-winな関係だって言ってもらえました。
あっしは嬉しくって涙がこぼれてしまいました。
これからもピーター様のお役にたてるようもっともっと励まなければって、工房のみんなとピーター様の話で大盛り上がりしました。
読んでいただきありがとうございました。
これからは毎日7時に更新をしていくつもりです。
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