第19話 孤児院
マリーと俺は手をつないだまま、歩いて孤児院まで来た。その間、マリーはフルショアでの話を楽しそうにしていた。
マリーと、姉と兄とはとても仲が良かったみたいだ。
また現在は病気になって伏せている父の事を凄く心配していた。
特に看病で疲れていた母親と、それを助けていたマリーの話は、俺でも感動してしまった。
せめてマリーと家族との間で、会話をさせてあげたいという気持ちがフツフツと湧いてきた。
次は無線機を作らねばと思ったが、ハンナに脅されているので、それを口には出さないでおいた。
リガリア王国の孤児院は明るく綺麗な建物に、子供たちが複数の部屋に分かれて暮らしており、アカデミーの寮とも似ていると感じられる場所だった。
やはり先先代の国王の時代に整備がなされたそうで、名君アベルの凄さを改めて感じる場所だった。
孤児達に対して、きちんと10歳まで基礎教育がされていて、計算や文字の読み書きは全員ができた。
10歳からは孤児院に住みながら、本人が希望する職人の見習いとして修行をする。
15歳になると孤児院を卒業して、一人住まいになり、ほとんどが見習いをしていた職種の職人として独り立ちするそうだ。
10歳までは孤児院の中で簡単な仕事をして暮らしているが、10歳からの見習い生活では少しは自由にできることも増えるようになっていて、きちんと義務と権利が確保されているなあと思った。
孤児院の基本的な費用は王家がまかなっているが、孤児院の卒業生達もきちんと職に就いてからは、孤児院にお金を返すようになっていた。
また孤児を欲しい人に対しては里親制度などもあり、比較的低年齢の孤児を対象として里親縁組をしていた。孤児を希望する里親に対しては、きちんと条件などの審査もされているようであった。
そんな孤児院の子供たちは前向きに努力しているように感じられた。
俺の目には現代でもなかなかないくらいに、整えられた孤児院に思えた。
マリーは孤児院に来てから、子供たちに何かを与えている訳ではない。
どちらかと言うと子供たちの話を一生懸命聞いてあげている時間が多いくらいだ。
しかしいつしかマリーは多くの子供たちに取り囲まれ、すっかり子供たちの人気者になっていた。
俺はマリーにこの孤児院に足りないものは何だろうかと質問をしてみた。
「この孤児院はとても素晴らしいと思います。
フルショアの孤児院では、こんなにもきちんと子供たちの教育や、将来を考えた事は出来ていませんでした。
ただどの孤児院も同じなのは、子供たちは自分の事を見てくれる事を欲しています。
自分の事を愛して、信じてくれる事を望んでいるのです。
その願望が十分に満たされれば、もっと幸せになれると思います」
と応えた。
やはり俺の目線は男からのもので、マリーが示すような女性からの無償の愛ではないのだろう。
子供たちはやはりいつでも愛に飢えている。それを与えられるのはマリーの様な人間でなくてはならないのだろう。
俺はマリーという人間が俺のすぐ側にいてくれるという事が、どれだけ幸運な事なのかを思い知らされた気がした。
マリーはまさに太陽の様な存在なのだろう。
デートから帰った後に、この感想をハンナに言ってみた。
「ピーター様もマリー様の良さがちゃんとわかっているんですね」
と、初めてハンナに微笑んでもらえた。
多分ハンナの笑顔を見たのは、この時が最初だろう。
「それとマリーとマリーの家族との間で会話が出来るような発明品を作って、マリーにプレゼントしたいんだけど、ハンナはどう思う?」
と無線機に対する意見を聞いてみた。
「それは素晴らしいアイディアだと思います。ただそんなことが本当にできるんですか?」
と驚かれた。
「任せなよ」
「流石マリー様が選ばれたピーター様です」
さあハンナの期待に応えなければいけないぞ。
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