第20話 冬の仕込み
順調に最初の学期は進み、実りの秋が過ぎて、どんどん日は短くなって冬至を迎えた。
アカデミーは冬至の翌日から一ヶ月は冬休みとなるため、俺とトーマスはクーリエ領に帰省をする。
今回の帰省ではなんと飛空挺を使わせてもらった。
一応俺は飛空挺を再度飛べるようにした功労者だったので、頼み込んだら個人的につかわせてもらえた。
クーリエ領は王都から徒歩で片道5日くらいかかる距離だが、飛空挺なら一日で往復できる。
クーリエ領みたいな田舎に普通飛空挺で行く人などはいないので、当然貸切だ。
料金は金貨5枚だった。
でもなぜかエギル王太子とジョゼフとエドガーに加えて、エレーヌまでついてきてしまった。
飛空挺が俺とトーマスの貸切だというのがバレたせいだが、この機会にクーリエ領のワイン製造を見て、ついでに高級酒の買い付けもしたいそうだ。
まあエギルが貸切料金を払ってくれるというので、俺たちとしても文句はない。
しかし親父のゴードンは飛空挺から降りた俺たちを見て、ぶっ倒れてしまったのだった。
まあいきなり貧乏子爵領に飛空挺が飛んできて、中から王太子や公爵家令嬢が降りて来るとは思わないものな。
しかしどうして飛空挺を利用してまで急いで帰省したかと言うと、俺には冬休みにワインからブランデーの仕込みをするという仕事が溜まっているからだ。
流石に収穫したぶどうを潰したり、発酵させたりまではやる事は出来ないが、出来上がった若いワインを蒸留して、ブランデーの原酒にするのは俺とハイジ抜きではまだまだ出来ないからだ。
いずれはきちんと蒸留機を設置して、俺たち抜きでできるようにしなければいけないのだが、ブランデーの味の決め手になる部分なだけに、まだ人任せには出来なかったのだ。
今回の俺たちの帰省では、王太子一行と公爵家令嬢一行をもてなさなければならなかった子爵家使用人の苦労はなかなか大変なものだったそうだ。
いくらフレンドリーさが売りの王太子と公爵令嬢とはいえ、大人の世界はシビアだ。
小さな粗相で首が飛ぶような相手である。そんな相手にケイトとナンシーは頑張ってくれていた。
特にナンシー、たった半年くらい会わなかっただけなのに、けしからん成長を遂げていた。ケイトとあまり大きさが変わらないおっぱいじゃないか!
思わず見惚れてしまったが、これがエレーヌの逆鱗にふれてしまった。
純真無垢なピーターを汚してしまうかもしれない危険な娘としてナンシーは注目されてしまったのだ。
「大丈夫だよ、エレーヌ。ピーターは元々みすぼれたおっさんなんだから、もうこれ以上は汚れたりなんてしないんだよ」
とは言えないのが辛い。
一応俺が転生した人間って情報は王族関係者のみに許された極秘情報だからだ。
まあクーリエ領では帰省の翌日からブランデーの仕込みに追われたので、ナンシーにエッチな視線を送る事はあまり出来なかった。
まあ所詮はヘタレの童貞なんで、視線を送るくらいしかできないのだけれど。
仕事に追われる俺を他所に、エギル王太子一行とエレーヌ公爵令嬢御一行はクーリエ領でのバカンスを楽しまれたみたいだ。
エギル達はスライムの泉がすっかり気に入ったそうだ。確かに一年中ほとんど同じ気温のスライムの泉は、真冬の今は暖かくって最高だ。
ブランデーのシングルモルト原酒の飲み比べが止まらなくなってしまったそうだ。
エレーヌはって言うと、冬休みの間にすっかりナンシーと仲良くなっていた。
最初は敵視していたのに、俺の子供時代のエピソードでナンシーとすっかり意気投合したのだそうだ。
最後には親父にナンシーの引き抜き交渉を始め、結局ナンシーの気持ち次第となったところで、
「わたし、王都のエレーヌ様のお屋敷にご厄介になります」
と言うナンシーの希望が叶い、ナンシーは公爵家に引き抜かれる事になったのだ。
移籍金は銀貨10枚。かなりの高額らしい。
ナンシー曰く、
「これでピーターと同じく王都で暮らせるわ。お給金も今の見習いの給金の100倍だし」
だそうだ。
確かに俺はPPPのお茶会で毎月一回は必ず公爵家に行かなければならないからね。
きっとナンシーに会う機会は増える事だろう。
冬休みが終わり、飛空挺が俺たちを迎えに来た。
「おいエギル、なんだそのスライムは?」
「ああ、スライムの泉で仲良くなってね。
一緒に王都に行くって言うからさあ。
せっかくだからエルザって名前をつけたんだ」
エルザはスライムの泉でエギル達と飲み比べをして仲良くなったそうだ。
ハイジのように人語を喋るまではいかないが、人の言う事は理解しているみたいだ。
ふるふると震えている。
エギルは俺のようにスライムの大きさを自在に変化させる事は出来ないが、本来の大型犬サイズでも王宮で飼うのはきっと問題ないのだろう。
帰りの飛空挺は、行きにはいなかったナンシーとエルザ。
それに買い付けられたワインやクーリエーヌ、ブランデーを満載し、王都に戻ったのであった。
そういえばブランデーはついに貯蔵5年を迎えて、VSOP(Very Superior Old Pale)として高級酒の出荷が始まった。
エドガーがスライムの泉でブレンダーをやってくれていたみたいで、かなり均質で最高品質になったみたいだ。
王都ではなんと1瓶で金貨5枚の値がついた。
飛空挺の貸切料金と同じだっていうのは流石にとんでもないって思ったが、まあ王太子と宰相お墨付きだし、ぶっ飛んだ値段になるのも理解はできるのかな。
もしかするとエドガーは将来的に宰相ではなく、ブランデーのブレンダーとして生きるかもしれないって言っていた。
一冬の体験が彼をこんなに変えてしまうなんて
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