第7話 新入生親睦行軍訓練
新入生親睦行軍訓練は闇の日に開催された。1回参加するだけで単位1が手に入るサービスのようなクラスなので、新入生は全員が参加した。
アカデミーではそれぞれの生徒が自分の好みでクラスのエントリーをするので、同じ学年とか、同じクラスで一緒に何かをするという事がほとんどない。
そのため時々はこのように同時期に入学したいわゆる同期的なイベントが開かれるのだそうだ。
実際俺は一緒に入学したメンバーの名前を一人も覚えていない。せっかくエントリーした必須科目の行儀作法とダンスでリタイヤしてしまったし、基礎戦闘訓練では授業冒頭で合格終了してしまったので、新入生コミュニティから外れしまったのだ。
他の新入生たちは一緒にエントリーをしている者達もいるようで、すっかり打ち解けた雰囲気を醸し出している。
ほとんどの新入生は15歳で、数人はそれよりもいくつか上である。つまりは全員成人をしているのだ。それに対して俺はまだ12歳。さらにはやや発達不良である。高校生の中に一人だけ小学生が混じっているような違和感だった。
「ピーター君ってエギル王太子殿下と同室なんですよねえ?」
微妙な雰囲気の中で、一人の女の子が俺に声をかけてきた。赤毛の髪にブラウンの瞳、大柄でスタイルの整ったなかなかの美女だ。
「ええ、そうですよ」と俺は応えた。
「わたくしエレーヌ・ポムドールと申します。わたくしの姉がエギル殿下と婚約をしているので、殿下は将来の兄上なんですよ」
「そうなんですか。そういう事情は全然存じなくって申し訳ありません」
「いえいえ、そんなことは大した事ではありませんわ」エレーヌはにこやかな笑顔だ。
「わたくし、ピーター君とぜひともお話をさせていただきたいと思っていたので、今日はお会いできて本当に嬉しいです」
「僕とですか?」君づけで呼ばれてしまい。さらには持ち上げられてしまったので、一人称が僕になっちまってるぞ、俺
「我が家のパーティーでノイヤー伯爵様がとても美味しいワインをお持ちくださったのですよ。そのワインが最近評判のクーリエーヌだったのです」
「我が領のワインをお召し上がりいただけたのですか。ありがとうございます」
「ええ、軽やかで、華やかな軽口の白ワインですが、キラキラと輝く気泡が美しくて、飲んでも飲んでも飲み飽きない素晴らしい逸品でしたわ」
「流石エレーヌ様、もうクーリエーヌをお飲みになられたのですね。わたしくなど噂話をうかがって探させているのですが、なかなか入荷しないので、まだ試せていないのですよ」
「うわぁ羨ましいです」
口々にエレーヌの取り巻きらしき女性達に取り囲まれてしまった。
前世では魔法使いになるまで童貞を拗らせた俺だ。この世界でも同世代の女子となんてナンシー以外にしゃべった事がない俺だぞ。大勢の女子グループに囲まれるなんて、心の準備ができていない。
「ぼ、ぼ、僕の作ったワインを喜んでいただけて、とても嬉しいです。せっかくお近づきになれたのですから、父に言って、皆さまにクーリエーヌを1本ずつお届けいたしますよ」
「おいおい、女子だけでピーターと親しくしようとするなんてずるくないか?」女子グループに取り囲まれている俺を奪おうと一人の男子が割り込んできた。
「あらあらピーター君はこんなに優しい紳士的な少年なんですもの。あなた方のようなむさ苦しい者たちとは混じらせられませんわ」
「そうですわ。ピーター君は私達にだけクーリエーヌをプレゼントしてくださるのですよ」
「純真無垢なピーター君に穢れが移りますわ。あっちに行ってくださいませ」
うわー、完全にアウェーだわー。これは逆らってはダメな奴だ。
この行軍訓練の時間を通じて、俺はすっかりピュアボーイのピーター君というイメージが焼き付けられてしまったのだった。
あれ、そういえば行軍訓練って何をしたんだっけ?
すっかり記憶が抜け落ちていた俺であった。
とりあえずクーリエーヌをプレゼントするために、同期の女子たち全員の連絡先が書かれたメモと単位1だけは獲得できたのであった。
ピーターの獲得単位 3(基礎戦闘訓練、行軍訓練)
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