第11話 ワインの付加価値
クーリエ領で生産されているワインはほとんどが白ワインだった。川ぞいに作られたワイン畑は石灰質で水はけが良く、あまり土壌の養分が多くないために、白ワインに向いているからである。
これに対して俺たちが新しく森を開墾した畑は粘土質で、生えていた木材を燃やしてしまったこともあり、色々と栄養が豊富なため、豊かな味わいを持つ赤ワインに向いた土壌であった。
このため俺は親父のゴードンを通じて、赤ワインに向いている黒ブドウの苗と赤ワイン作りの経験のある職人を集めてもらった。
最初は日本で学んだワイン作りのうんちくを語る俺の事を胡散臭く思っていた親父だったが、ハイジを使って見せた実験で、赤ワインと白ワインの違いに感心したみたいで、最後には俺の言うことに納得してくれた。
そもそも赤ワインは黒ブドウを使用して皮と種を一緒に果汁を絞り取り、一緒に漬けこむことで皮の色素成分が果汁に染み出して魅力的な赤色を出す。これが赤ワインが赤い理由だ。
白ワインはブドウの皮や種を除いて絞り取った果汁だけで造る。皮と種を抜いた状態で発酵が行われるため、発酵の際に液体に果皮の色が移らない。
白ワインは、ワインの渋み成分であるタンニンが微量なので、赤ワインよりも口当たりが滑らかだ。ワイン初心者の方には、白ワインの方が飲みやすいのだが、お金になる高級ワインには赤の方が多い。
特に長期熟成するタイプのものは、赤ワインが多い。長期熟成に必要なタンニンやポリフェノールが熟成には必要となるためで、長期熟成のタイプのワインはほとんどが赤ワインなのだ。
ハイジを容器として使い、俺の圧縮と膨張の魔法を使うと、ブドウの吸収、圧搾、皮と種の除去、発酵や熟成を早送りにすることもできるのだ。
これまではクーリエ領では長期熟成をきちんとできる設備がなかったのだが、ハイジと出会ったスライムの泉は年中温度がほとんど一定で、湿度が常に高い状態を保っている。天然の最高品質の長期熟成保管庫だったのだ。
さらにスライム達はけっこうお酒好きみたいで、樽から揮発していくアルコール成分を好んで、樽の管理などをやってくれそうだ。この環境を利用しない手はない。
森の中で倒したオークの木は職人に樽を仕立ててもらった。これまでクーリエ領で作られて、売れ残っていた白ワインは一旦開栓をし、ハイジに取り込んでもらった。
ハイジを膨張の魔法を使って大きくする。そうすると圧力が下がったワインの中からアルコールだけが飛び出してくる。このアルコールだけを集めてもらって、オークの樽の中に仕込んだ。
これは白ワインから作った蒸留酒であるブランデーだ。ブランデーの中で、オークの樽で長期間熟成をしたものをコニャックという。コニャックは高級酒として売れるはずだ。こうしてこれまで二束三文で買い叩かれていた古いワインが高級酒に変わった。
さらには今年できた白ワインの一部には少しの砂糖と酵母を追加で封入し、栓が中からの圧力で吹っ飛ばないようにワイヤーで加工した栓を使い半年程度熟成をしてから出荷した。
元々華やかで軽い味わいのクーリエ産白ワインだが、瓶内で追加発酵をさせる事でスパークリングワインにしてみたのだ。
こののちクーリエ産スパークリングワインはクーリエーヌのブランド名で、王都の高級レストランで引っ張りだこの人気者となっていく。
以前は年収金貨2枚だったクーリエ領の白ワインは、新しく作られた開墾した畑の赤ワイン、クーリエーヌとしてブランド化されたスパークリングワイン、さらには2年目から少しずつ出荷され始めたコニャックによって、3年後には金貨10枚。5年後には金貨20枚へと大きく成長していく事になるのであった。
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