不死の提督ー奇跡の夜襲戦ー
私を殺してください。
死なずに生活して幾世紀たったのだろう……。
もうそんなこと覚えられないほど世界を回ったっけ。
そして今は……なぜか、海軍の司令官という地位にいる。
「提督ッ! このまま突撃しては敵に演習でもしてくれと言っているようなものです!」
「構わんですよ。この闇に乗じて砲雷撃をくらわせなさい」
今、指揮しているのは重巡洋艦一隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦四隻の小さな水雷戦隊。
みんな素直で努力家の乗組員たち。鍛えがいはある。
私が無茶振りな訓練ばかりしていたものだから、海軍内では“鬼の二駆”と恐れられている。
だから今回の殴り込みの任務にうってつけというもの。
「提督がそこまで考えているのであれば、後はもう付いて行くだけです」
「うん。よろしく頼む」
「全艦へ! 奇襲を成功させたらもっと派手にやれとの命令だ! 悔いを残した奴はあとで殴ってやるから俺のところまでこい! 以上だ!」
あれ? 私そんなこと言ったっけ?
副司令のこの発言でより一層士気が上がってしまった。
やることが増えたな……。
「目標視認! 二時の方向! 距離二〇ッ!」
「よぉしッ! 砲撃戦用意!」
「まだ撃つな。もうちょっと距離を縮めて確実にしなさい」
「了解ッ! 各員即応待機ッ!」
ゆっくりと近づく。
命令を待つ将兵の静けさはどの時代でも一緒だ。
奇襲はそれでなくてはつまらない。
「距離一〇ッ! 右舷三時方向ッ!」
「一斉打ち方はじめ。全砲門開け」
「撃てェ!」
重巡から一斉射、続いて魚雷が敵艦隊へ向かって行く。
命中する前に全艦が探照灯を照射しその光が先に敵艦を捉える。
闇夜に浮かび上がるのは重巡よりはるかに大きな戦艦の影。
あ~。やっぱり、こっちが主力か。
魚雷を撃てたことはいいとして、砲撃だけじゃあ撃ち負けるね。
「軽巡以下突撃していきます!」
「探照灯を消して行けと伝えろ! 砲撃はこの艦が引き受けた!」
おいおい。何を言うかこの副司令。
もはや号令で止まらない歯車となった艦隊。
ただ、ここで全艦を失うわけにはいかない。
はぁ~。ここであれを使っちゃうか……。
「副司令。終わったら声かけてね」
「了解しました。指揮権を頂きます!」
鬼と呼ばれる所以はこの放置であると思う。
私は自室に行き。やることがあるというものだ。
人は戦闘中に読書にふけっている豪胆な人だというが。
それは違う。
私は魔法を使用しているのだ。
具体的には敵の砲弾、爆弾の命中回避。敵の指揮混乱など使うが、ほとんど砲弾だけでいいかもしれない。
「さて、と。生きすぎた産物が役に立つ」
魔方陣を展開し第三の視点より様子を観察する。
敵艦隊は戦艦を三隻も有しているのに、混乱のどん底で指揮系統の乱れがある。
味方水雷艦隊はうまく懐に潜り込みつつあるし、敵の砲撃はこの旗艦に集中している。
今のところめくら撃ちで命中弾になりそうなものは一発もない。
あれっ?
これって私、必要なくない?
人間の混乱が激しくて戦いに勝利してきたのはいくつもあるけど、これは五本の指に入るほど愉快。
久々に楽しめる戦いね。
こんな戦いなら生きていてもいいかな。
後に戦艦三隻を沈めた水雷提督は昔も今もこの戦いを指揮したものだけであり。
戦史として稀なる戦いとなった。
味方軍の被害は無し。敵方は戦艦三隻撃沈、駆逐艦四隻撃沈、輸送艦一〇隻以上撃沈し完全勝利。
敵はこの戦いで反攻作戦を三か月以上遅らせることになる。