結
「俺が来るまで待ってろって言っただろ……」
彼はやれやれといった感じで彼女の隣まで歩いて来ました。
彼を見ただけで魔法のように動悸は落ち着きました。
「突然来て驚いたと思います。 すみません」
彼はそう言うと、すぐに頭を下げました。
「あ、いえ、そんな事ありません!寧ろ……」
寧ろ、会えて嬉しいだなんて言えるはずがありませんでした。
私が慌てて彼に頭を上げるよう言ってる最中でも、彼女はニコニコと笑顔を絶やしませんでした。
「それで、お二人はどうしてここに?」
私が取り乱して聞けなかった事を、その時は落ち着いて言えました。
それは彼が傍にいたからだと思います。
やはり、私の中で彼の存在は大きなものになっていたのです。
「んー、実は結構前からこいつに君の事を聞いてたんだよね。それで気になって会いに来ちゃった」
彼女はニヤニヤとした笑顔で話し始めました。
「俺は止めたんだけど、こうと決めたら言う事を聞かなくて」
彼は再度すみせん、と申し訳なさそうにしていました。
私はえ、え?とした感じで彼等の言葉を何度も頭の中で繰り返していました。
彼が彼女に私のことを話していた、ということ。
そして彼女はそれを聞いて私に会いたくなった、ということ。
徐々に私の顔が熱くなっていくのを感じました。
「わ、私の事を話したって」
「あ、うん。勝手に話してごめん。毎週日曜日に屋上に来る女の子がいるって話をこいつにしてたんだ」
「そうそう。こいつ楽しそうに話すんだよ。だから気になっちゃって。そういえば今日も屋上に来てたよね?話しかけようと思ったんだけど気付いたらいなくなってたから看護師に聞き回って君を見つけたんだ」
彼と彼女は楽しげに話しますが、その内容が私の事なので赤くなる顔を抑えるのに必死でした。
そうして、彼らと話してるうちに彼女に対する嫉妬心はもうどこにもありませんでした。
そして、結局二人の関係性を聞くこともしませんでした。
だって、こんなにも楽しそうに話してる彼らを見ていると、そんな邪な気持ちを抱く自分が許せなかったのです。
確かに気になりますし、聞きたいです。でも、聞いたところでどうにかなる問題でもないことに気づきました。
この気持ちはこっそりしまっておこう。そう覚悟を決めました。
「でさ、君はこいつのどこが気に入ったの?」
一瞬、時間が止まったような錯覚を覚えました。
彼女のその言葉は、私が彼を好きだと見抜いての発言でしたから。
また、動悸が早まるのを感じました。
「え、あの、それはどういう」
「こいつのこと、好きなんでしょ?」
先程までの優しい笑顔はどこにもなく、その瞳は真剣そのものでした。
「優、あんまり彼女を困らせるようなことは」
「大事なことだから、黙ってて」
彼の言葉を遮る時も、私から目を逸らしませんでした。
その威圧感に私は彼女の瞳から目を逸らすことも出来ず、ただただ心臓の早まりを自覚するだけ。
彼の目の前で、彼女は私の隠し事を暴こうとしている。
胸にしまっておこう。そう覚悟したばかりの『好き』という感情を。
「こいつさ、かなり奥手なんだよ。 その癖わかりやすくて」
はぁ、と溜息を零しながら話題は彼の事になりました。
「私ね、あんまり長くは生きられないんだ」
次の瞬間には、彼女自身の事に。
「んで、こいつ私しか友達がいないんだよ」
そしてまた彼に。
この人が、どれほど彼を慕っているのか私には何となく分かりました。
「まあつまりね、私が死んだらこいつ一人ぼっちなんだ。 だからさ、君にお願いがあるんだ」
それはきっと、誰にも譲れないほど大切な想いなのでしょう。
私が抱え込んでるものより何倍も強い想い。
だから私は……。
「君もこいつの事が好きならさ、こいつのためにも私の代わりに死んでくれないかな?」
まだ続きます。




