転
その人は、女性の方でした。
点滴スタンドを傍らに置いてる姿から、私と同じ入院患者の人だと分かります。
彼とその人は、お互い対面で話していました。
2人とも笑顔が絶えず、いつも彼が操作しているノートパソコンはどこにも見当たりません。
2人の関係がどういうものなのか私には分かりませんが、彼はとても楽しそうでした。
彼と話している女性はとても可愛らしい女の子で、私とあまり変わらない年齢に見えます。
なぜか服装は男性ものみたいですが……。
この一ヶ月と少しの間、彼を見つける度に彼に対する想いが大きくなっていくのを感じていました。
これが好きという感情なのだと確信していました。
今日、彼と話をする事でこの気持ちに整理がつくと思っていたのに。
今日、彼と話せると思っていたのに。
私には、彼しかいないのに。
病室へ戻って、私はベッドの上で考えていました。
彼とあの女性はどういう関係なのか。
兄弟なら良いです。友達ならまだ。
もし、もし恋人という関係性なら。この気持ちをどうすればいいのでしょうか。
あんなに可愛い女の子です。可能性は高いでしょう。
彼の楽しげな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
そんな彼と話す彼女も同じように笑顔でした。
あの瞬間だけはまるで2人だけの世界のように見えました。
私が入る隙間など最初から無かったのです。
同日、夕方。
まだ陽が完全に沈む前。
扉がコンコンとノックされ、人が入ったきました。
私は看護師の方だと思いそちらを見ると、女性がいました。
今日の午後1時。彼と楽しげな会話をしていたあの女性です。
彼女は私にニコリと微笑み、点滴スタンドをカラカラと連れながらベッドの横に置いてあるパイプ椅子へと座りました。
「こんな時間にごめんね。ちょっとだけ話せないかな」
話す?何を?
今1番会いたくないのに。それよりもどうして私の病室がわかったの?
私は完全に混乱していて、言葉が出ませんでした。
それでも彼女は黙って私が落ち着くまで待っていてくれました。
一度、二度と深呼吸をして呼吸を落ち着ける。
彼女の瞳はとても優しくて、自然と目が合ってしまいます。
私は彼とも彼女とも話したことが無いし、知っているはずがない。
それに、彼女がここへ来る理由もわからない。
まさか、彼が彼女に私の事を話した?
じっと見てくる女なんて気持ち悪いだろうし、もしそういう関係ならあるかもしれない。
でも彼がそんな事を言うなんて有り得ない。
そういう関係だって信じられない。
彼がそんな事をするはずがない。
そう考えるほど、自然と呼吸が荒くなっていく。
「優」
それは、聞いたことのある声だった。
声のした扉の方を振り返れば、そこには毎週見ていた彼の姿がありました。




