起
その日は、とても真っ青な空でした。
私が入院している病院の屋上には、2人くらいが座れるベンチがあるんです。
私は気分転換する為にここに来て、1人で空を見上げたり、私の背丈よりも高いガラスの向こう側にある街を見たりして時間を潰すことがよくあります。
というより、ほぼ毎日のようにここへ来ています。
何せ外出も禁止されているためやることがなく、かといって一日中ベッドの上で過ごすのも嫌ですから。
そんな退屈な日々で。その日は小雨でした。
これじゃあ屋上には行けないな、と思いながら気がつけばエレベーターに乗って屋上のボタンを押してました。
我ながらちょっと可笑しいなと心底呆れながらも屋上の扉の前までやって来ました。
当然外は雨が降っていて、屋上の扉は施錠されていました。
少しだけ落胆している自分がいました。
仕方なく踵を返し、帰ろうと思った時、彼がいたんです。
屋上には入院している患者さんや面談に来た親族の皆さんの為にレストランみたいな食堂があります。
そんな小さな食堂の中で、1人だけ窓際の席に座っている男の人が目に止まりました。
彼以外は誰もいなくて、それが余計に不思議な感じがしました。
食堂なのに何かを食べている様子も見せず、ノートパソコンとにらめっこしているみたい。
真剣な表情をしているかと思えば突然にやにやしたり、頭を抱えたり、机に伏したり。
ちょっと変な人だな、と思いながら気になっている自分がいました。
そんな私に気がついたのか、彼と目が合いました。
彼はぎこちない表情で手を振ってきて、私も手を振って返しました。
でもよく考えれば、私は彼とはなんの面識もないのに入り口からじっと見ている変な人で……。
それに気付いて顔が熱くなるのを感じながら早足で逃げました。
その日から、雨が降っていても屋上に行くことが増えました。