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ちゃんと自覚してるから

 結婚式の翌朝。

 バルコニーの椅子の上で豆茶をすすりながら、ゆっくりと街を見渡す。片付けの済んでいない屋台。酔って寝ている住民。警備ユニットや掃除ユニット。昨日は街の住民も大きなお祭りをしたようだ。


 しばらくすると、レミリアが目をこすって現れた。

 眠そうな様子で俺の膝に座る彼女。その耳を、俺は優しく撫でる。



 ポツリポツリと話に上がるのは、やはり昨日の結婚式のことだった。あれは、とびきり良い式だったもんなぁ。


「マールのウェディングドレス……すごくよかった」


 レミリアは頬を染め、ポーっとした顔をしている。

 そういえば、あのドレスを作るため、マザーメイラではデザイナーによるコンテストが開かれたらしい。


 コンテストの特設アプリ。様々なデザイナーがドレスの写真を投稿できて、マザーメイラの住民は良いと思ったものに投票することができるアプリだ。

 そのアプリ上で、あのドレスはダントツの人気だったのだとか。奇抜さと伝統のバランス。色気と清楚さの両立。大人のドレスにも見える一方、遊び心も入っている。

 しかも、ドレスを作ったのは鬼族のデザイナーだった。センスに自信のあった甲殻族、手先の器用な人族は揃って膝を落とした。確かに良いドレスだったし、評価自体には納得の声ばかりだったけど。



 ちなみに、あのドレスは綺麗なだけじゃない。

 部分着脱が可能で、脱がせ方が48通りあるのだとか。


 パーティの場ではデザイナーがその点をかなり力説していたけれど、その機能が昨晩十分に活用されたのかはグロン兄さんとマール姉さんしか知らない。

 ただ、その情報を知ったマール姉さんの口元が緩んでいた場面はみんなが目撃していた。



 会場には、タイゲル家からの祝いの花も届いた。


『人という古代文字は、二人が支え合って立っている姿が元になっていると聞く。やっと結ばれた半身同士が人になり、これから歩んでいく。末永い幸せを』


 そんなメッセージが添えられていた。

 それを読んだフローラは、俺の肩をつついて言った。


『ねぇ、リー兄。この「人」っていう文字は、一人の人間が二本の足で地面に立ってるのを模した象形文字だと思うんだけど、違うのかなぁ』


 俺もそっちの方が正解だと思うなぁ。

 まぁ、もしかしたら同種の文字群に「/」とか「\」ってものがあるのかもしれない。それが男女や半身を表すような象形文字なんだとしたら、この話も分からなくはないかな。


 フローラは、後で神殿の書庫で調べてみようよ、と言っていた。

 普通、神官以外は神殿の書庫に入れない。だけど、彼女は神理学の理論構築にかなりの貢献をしているらしく、最近は顔パスで入らせてもらっているのだとか。

 あぁ、さすがは天才美少女天使だ。



 レミリアが俺の頬をつまむ。


「リカルド、またフローラのこと考えてる」

「……どうして分かったの?」

「顔がデレデレしてるときは……だいたいそう」

「えー、そんなに顔に出るかなぁ」


 レミリアはクスクスと笑いながら、気持ちはちょっとわかるけど、と言った。彼女もフローラのことをとても可愛がってるもんなぁ。よく膝にのせて頭をなでているし、最近は女子トークも盛んなようだ。

 一昨日などは、俺の膝にのるレミリアの膝にフローラがクマタンを抱えて座るシーンもあった。



 そういえば、パーティではフローラが子分たちを引き連れて可愛く練り歩いていたっけ。

 フローラの親友のクマタン。弟のタルートと若草色の飛竜ミド。タイゲル家のモニカと桃色の飛竜モモ。加えて、今年で5歳になったサルト兄さんの息子のジークは、肩にぬいぐるみの小鳥をのせてその後ろを歩いていた。


 元弟子のサルト兄さんは、今や魔導家具職人として国内外にその名を響かせていた。クロムリード領の輸出品の中でも、この家具たちは定番の大人気商品だ。

 パーティではサルト兄さんにようやく再会することができて、久々にいろいろと話をした。


『大きくなったね、リー坊』

『サルト兄さんは少し痩せた?』

『ははは、妻のカロリー管理が厳しくて。パーティでもなければ、脂っこいものは滅多に口に入らないよ』


 そう言いながら、顔をクシャクシャにして笑う。

 その変わらない笑みに、俺は胸がいっぱいになった。


『そういえば、うちのジークとフローラちゃんの婚約話が進んでるんだけど、聞いてる?』

『えー、初耳だよ……我が家の天使をどうする気さ』

『いや、フローラちゃんからの提案でね。あの子も今年6歳だから、社交界デビューだろ。リカルドの時みたいに望まない婚約者を押し付けられるくらいなら、気心のしれたジークの方がいいんだって』


 兄としては事前に知らなかったのがショックだ。ジークとは初対面だし、どんな子なのか気になるな。様子を見てると、ずいぶん穏やかそうな子だけど……。


『僕としては実感はないんだけど、妻から見るとジークは昔の僕にそっくりらしいよ』


 なるほど。それなら問題ないか。


『あと、フローラちゃんが言ってたよ。素材は悪くないから調理は任せて、って。どんな魔改造をする気だろう』


 二人はまだ6歳と5歳。時間はたっぷりある。

 サルト兄さんは苦笑いをしながら、子どもたちのリーダーとしてズンズン歩くフローラを眺めていた。

 あぁ、彼女は天才美少女ガキ大将だなぁ。



 なんて考えていると、レミリアが俺の頬をつまむ。ジト目で俺の顔を覗き込んだ。


 のんびりとした朝の時間。

 俺の居室やバルコニーはそこそこの広さがあるけど、今は椅子がひとつ置ける面積があれば十分だった。


「二人の演奏……素敵だったね」

「そうだね。グロン兄さんの魔導ピアノも胸に響いたし、マール姉さんの魔導笛も綺麗な音色だった。二人らしい素敵な二重奏だったよね」

「……ドルトンさん、泣いてたね」


 余韻に浸りながら、その日は過ごした。

 みんなもぼんやりしていて、領主館にもマザーメイラの街にもゆったりとした空気が流れていた。



 翌日には、みんながバタバタと領都を発つ。


 アンジェラと世話係たちは北のホーリーライアーへ。ジェイド兄さんと護衛たちは東のフェンリスヴォルフへそれぞれ帰っていった。

 まぁ、真空筒型地下鉄道(ヨルムンガンド)であっという間に着くんだけどね。


 父さん、ドルトンさん、ノヴァ兄さんの三人は、議会に出る必要があるため猪車に乗って王都へ。ミラ姉さんもそれについていって、ノヴァ兄さんとともに王都やメングラッドアイルで暮らし始めるようだ。


 去り際に父さんが告げる。


「リカルド。レミリアとフローラを連れて、春の下旬までには王都に来るんだぞ」

「……え?」


 俺は首を傾げて父さんを見る。

 父さんは、やっぱり忘れていたか、と呟く。


「言ったじゃないか、社交界デビューだと。例年、お披露目のパーティは春の下旬の後半に行われる。そのつもりで来い。ジルフロスト殿への挨拶も考えておけよ」


 そういえば、そんな話もあった気がする。


 病弱な次男のリカルドが、ついに衆目に晒される時が来たわけか……なんて呟くと、みんなは俺に生温い目線を向ける。


 うん、分かってるよ。

 既に割と目立ってるってことは。


 ちゃんと自覚してるから、そんな目で見ないでほしい。


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