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最低限のものはそろった

 領主館の基礎部分は、既に汎用ユニット(ノルン)によって構築され、後は上ものを作るだけの状態だけの状態になっていた。


 俺は中心付近に領主館専用ユニットを置く。


 資材の山で生まれた汎用ユニット(ノルン)が集まってくると、専用ユニットはそれらをパクパクと飲み込んでいった。

 言い方は悪いけど、なんだか人身御供みたいな感じだな。彼らは自ら捕食され、領主館を構成するための栄養になっていくのだ。


 領主館専用ユニットは、捕食したユニットを分解しながら自己分裂を繰り返していった。1個が2個になり、4個、8個、16個……。やはり外部から組み上げるより、自分で成長していくタイプの建造物の方が圧倒的に建設が早いものだ。


 レミリアは目を丸くしてその様子を見ていた。


「すごい……生きてるみたい」

「うん。生き物を参考にしてるからね」


 護衛の2人も目を見開いて驚いている。

 その傍ら、領主館はどんどん成長していき、やがて中が空洞の箱状になった。前面と後面には大きな穴が開いている。これが、あらゆる建物に変わっていく前の基本形だ。


「じゃあレミリア、そろそろよろしく頼むよ」

「……ん。わかった」


 彼女はそう答えると、人工魔石の入ったバックパックを背負う。作業をする際のフル装備ではあるが、今から行うのは整地ではない。


 レミリアが開発した人工魔石は、既に原材料としての魔石は不要であった。なぎ倒した樹木を材料にして、いくつかの複合型魔法陣を介すことで、短時間に魔石を構築できる。もちろん、汎用ユニット(ノルン)が勝手に増殖できるのも、彼女の開発したその技術のおかげである。

 ただ、一定以上大きな人工魔石になると、構築手順が少し面倒になっていた。魔法陣を介して作れる大きさには限界があったため、複数の人工魔石を作ったあとに専用の魔法で結合する必要がある。


 つまり、大型の人工魔石はレミリアにしか作れないのだ。


「リリア……準備はいい?」

『はい、規定量の人工魔石を確認しました』

「増幅率はそのまま。目標命力500」

『85%……95%……どうぞ』

「発動。独自魔法【人工魔石結合】」


 レミリアは目の前に積まれた人工魔石へ向かった魔法を放つ。するとそれらは、バキバキと音を立てて融合し、やがて一つの大きな青い石になった。


 この巨大な人工魔石がこれから領主館のエネルギー供給を担っていくのだ。


「お疲れ様、レミリア」

「……ん。上手くできて良かった」


 汎用ユニット(ノルン)が人工魔石を運び込むと、成長を続ける領主館はそれを取り込み、自ら屋根の上部に取り付けた。

 後は放っておけば、夕方頃までには領主館が完成しているはずだ。よほどの事情がない限り、俺たちが手を加えることはしなくていいだろう。


 すこしホッとしながら、ふと空を見上げる。

 浮かんでいる雲は随分と低くなっている。


「レミリア、雨が来るかも。少し急ごう」


 そう言って、俺たちは丘の上を後にした。


 中央広場のエリアへ着く頃には、小雨がパラパラと降り始めていた。俺は休憩を提案するが、レミリアは首を横に降ってその場を動かない。


「……雨が酷くなる前に、やっちゃいたい」


 彼女は魔法壁を駆使して、広場の中央部に四角い大穴を掘り始めた。それに合わせ、汎用ユニット(ノルン)たちが底面を固めていく。

 もちろん、これから広場の地下部分に作る設備も、この領都にとってなくてはならないものだ。


 できるなら、レミリアの結界魔法も魔道具化して同じ作業を手伝えるようになりたかった。しかし現状では、魔導書(グリモワール)で解析できるのは元から魔法陣の存在する陣型魔法のみ。発声型魔法については、魔法陣のあたりすらつけられていなかった。このあたりは、今後も研究していきたいところだ。


「……できた。こんな感じでどう……?」

「十分だよ。風邪を引かない内に、仮設テントの方に戻ってて。あとは俺が引き継ぐから」


 彼女にタオルを手渡すと、俺は前へと進む。

 そこにあったのは広さ10メートル四方、深さ3メートルほどの大穴だった。中央部にはレミリアが作った巨大な人工魔石が配置されている。


 その中へ、一つの専用ユニットを放り込んだ。


「アルファ。どうかな」

『はい。魔法陣専用ユニットは予定通り分裂を始めました。今のところ問題はありません』


 アルファの報告を聞きながら穴の中を眺めていると、やがてそこには大きな魔法陣が現れた。直径8メートルほどの巨大な円型で、細部に渡るまで複雑に構成されている。人の目にはとても全容を把握しきれない類のものだ。


『第一魔法陣の構築が完了しました』

「了解。じゃあ、埋めてくれ」

『はい。かしこまりました』


 掘り起こした土から汎用ユニット(ノルン)が生まれ、次々と穴に入っていく。出来上がったばかりの魔法陣は上から埋め尽くされ、やがて地面の下に見えなくなった。


『目標の高さに到達しました』

「うん。じゃあ、第二魔法陣の構築を始める」


 俺は2つ目の魔法陣専用ユニットを放り込む。ほどなくして、再び先ほどと同じように魔法陣が広がっていった。作っては埋め、埋めては作りの繰り返しだ。


 そうして、全五層の層型魔法陣が完成する。

 その頃には雨も本降りになり、俺の体はすっかり濡れて冷え切っていた。


『マスター。一度テントにお戻りください』

「うん。そうするよ」


 本当はもう少し進めてしまいたいけど、ここで風邪を引いては元も子もないからな。


 俺はトリンと分かれ、レミリアの待つ仮設テントへと入る。その中は簡易な暖房魔道具で暖められていて、レミリアは奥の方で毛布に包まっていた。


 急いで濡れた服を脱ぎ、タオルで体を拭く。

 物干しロープにはレミリアの服が掛けられているけど、その横にはまだスペースがある。俺は自分の服をそこに干すと、温風の魔道具で髪を乾かし始めた。


 レミリアが毛布の端から顔を半分だけ出す。


「……おかえり」

「ただいま。レミリア、大丈夫?」

「まだ、ちょっと寒い……温めて、リカルド」


 そうして呼ばれるがまま、俺はレミリアの毛布へと入り込む。彼女を後ろから抱きかかえるようにして座ると、冷えた肌が密着した。どうやら、彼女も今は何も着ていないらしい。


 長い耳を触ってみれば、まるでいつかの冬の日のように冷え切っていた。


「へっちゅん……」

「相変わらず、可愛いクシャミだなぁ」

「……ばか」

「寒いの苦手だったよね」

「ん……」


 彼女の耳をコリコリと触って温める。互いの体温が毛布の中で混ざり合い、体の強張りも少しずつ解けていくようだった。聞こえてくるのは、彼女が小さく息を吐く音と、テントに落ちる雨音だけだ。


「リカルド……」

「……ん?」

「あの、ね。実は……」


 レミリアが何かを言いかけた時だった。

 突然、テントの入り口が乱暴に開く。


「寒い寒い! リカルド、オレも入……あぁ悪い、お楽しみ中だったか」


 ナーゲスの滞在時間は二秒ほど。さっと入り口を閉められたけど……お前ら絶対夫婦だろう、なんてまた言われるのだろうか。


 俺たちは顔を見合わせ、一緒に小さく笑う。体も十分温まったところで、毛布から出て服を着始める。とりあえず、今日の作業はここまでにしておこう。



 領都マザーメイラの開発は、そんな風に順調に進んでいった。大きなトラブルもなく、都市に必要な設備を次々と作り、世界樹(ユグドラシル)を育てていく。苦労もしたけれど、振り返ってみれば楽しい時間だったように思う。


 この都市に最初の住民がやってきたのは、春も中旬になろうとしている頃だった。不足も多いけれど、最低限のものはどうにか揃えることができただろう。

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