#004「お付き合い」
@鷹取のアパート
ナツメ「それで、和泉くんとはどこまでいったのよ?」
アツコ「博物館と映画館に行ったわ」
ナツメ「ほうほう。天然発言は無視するとして、それから、どうしたの?」
アツコ「山手に上がって、一緒に画材を見たわ」
アツコ、片手で矢印を作る。
アツコ「このマークの店よ」
ナツメ「指詰め注意?」
アツコ「もう。分かってるくせに」
ナツメ「それは、こっちのセリフよ。それから、それから?」
アツコ「三宮で解散したわ」
ナツメ「昭和の逢引か。いまどき、少女漫画よりも健全だわ」
アツコ「物事には順序というものがあるのよ」
ナツメ「何十年かけるつもりよ。もう三十路なのよ?」
アツコ「そりゃ、あわよくば厄年までに結婚したいけど、仕事も優先したいし」
ナツメ「あぁ、もう。何も言えないわ」
*
@御影の文化住宅
ヨウゾウ「それで、敦子ちゃんとは、どこまで進展したんだ? 洗い浚い白状したまえ」
イヅミ「えぇと、まず、プーシキン美術館展を鑑賞しました」
ヨウゾウ「なるほど。『素敵な絵ね』『君のほうが、ずっと素敵だよ』という訳だな?」
イヅミ「そんな、イケメンにしか許されないような、お寒いことは言いませんよ」
ヨウゾウ「ベタなくらいが丁度良いってのに。そのあとは?」
イヅミ「お昼に和食をいただいてから、フランス映画を観ました」
ヨウゾウ「おぉ、良い雰囲気じゃないか。『ジュテーム』『ノン、ノン。きっと、はじかみの味がするわ』『構うものか』という展開が」
イヅミ「待ってません」
ヨウゾウ「濡れ場は?」
イヅミ「全年齢対象です。プロバンスの緑豊かな田園地帯を舞台に、気難しいお婆さんと、いじめられっ子の孫娘とのひと夏の交流を描いた、ハートウォーミング作品です」
ヨウゾウ「次回はレイトショーにしろよ。それで?」
イヅミ「そのあとは軽くお茶して、生田ロードを北へ上がって」
ヨウゾウ「生田神社で安産祈願?」
イヅミ「せめて、恋愛成就でしょう。その手前の都市型ホームセンターで、買い物に付き合ってもらったんです」
ヨウゾウ「何を買ったんだ? 長い夜に備えて」
イヅミ「あいにくですが、そのあとは駅に行きましたよ」
ヨウゾウ「そうか、そうか。お前は蕗谷虹児の雑誌に出てくる好青年か、各務」
イヅミ「八頭身でも、眼がパッチリした細面ではありませんよ?」
ヨウゾウ「見た目ではない。純粋すぎる。清く、正しすぎる」
イヅミ「慎重に段階を踏んでるだけですよ」
ヨウゾウ「こりゃ、何を言っても無駄だな」