#039「みどりの日」
@御影の文化住宅
アツコ「娘にエイプリルフールのドッキリを仕掛けるなんて、どうかと思うわ。飽きもせず、毎年よく考えるものだわ。今年も、すっかり騙されちゃった。娘を嵌めてニヤニヤする両親って、どう思う?」
イヅミ「僕は小さいときに国北さんと共謀して、一年前の新聞にアイロンをかけて祖父に渡したことがありますから、何とも言えませんね」
アツコ「まぁ、和泉さんも引っ掛ける側なのね。それは、それとして。渡したいものって、何?」
イヅミ「大したものでは無いんですけどね。もうすぐ誕生日なので、そのお祝いも兼ねて」
アツコ「あら、プレゼント? 嬉しいわ。物欲が乏しいから、選ぶのに困ったでしょう?」
イヅミ「そうでもないですよ。あんまり期待しないでくださいね。一つ目は、このエフ一のスケッチブックです」
アツコ「横長なのね。ウゥン。走り出しそうには見えないんだけど?」
イヅミ「カーレースとは無関係ですよ。エフ一とは、スケッチブックのサイズのことです。コピー用紙とは逆に、数字が大きくなるほどサイズが大きくなるんですよ。あれが、エフ四です」
アツコ「あぁ。わたしが前に、勝手に見ちゃったスケッチブックね」
イヅミ「水に流しましたよね?」
アツコ「透明水彩だけに?」
イヅミ「フフッ。そう来ましたか」
アツコ「一つ目ってことは、これだけでは無いんでしょう?」
イヅミ「もちろん。二つ目は、こちら。丸缶二十四色入りの水彩色鉛筆です。描いたあとに水に浸けた筆でなぞると、水彩画のようになるんですよ」
アツコ「これ、軸が黒鉛筆と同じで、六角形なのね」
イヅミ「持ちやすく、転がりにくい構造になってます」
アツコ「二十四色入りだけど、金と銀は無いのね」
イヅミ「三十六色入りには、金と銀もありますよ。でも、滅多に使わないでしょう?」
アツコ「まぁね。初心者には、これくらいで充分だわ」
イヅミ「それから、最後は、これです」
アツコ「スカーフ?」
イヅミ「いえ、ハンカチです。三宮地下街にある、タータンチェック洋品店で買ったんです。一時期、ドラマの影響で話題になったんですけど」
アツコ「あぁ、あのお店ね。落ち着いた雰囲気で、そのうち寄ってみようと思いながら、一度も足を踏み入れたことがないのよね」
イヅミ「今度、一緒に行きましょう」
アツコ「まだ、これと同じ箱が、もう一つあるみたいだけど?」
イヅミ「気が付きましたか? 僕も自分用に、色違いの物を買ったんです」
アツコ「本当。同じデザインの色違いだわ。お揃いね」
イヅミ「えぇ。お揃いです。――そろそろ、区役所に行きましょう。本当に、今日で良いんですよね?」
アツコ「えぇ。だって今日までなら、歳が同じでしょう? お揃いよ。まぁ、式は来月だから、届出だけでもね」
イヅミ「そうですね」




