#037「朝まで討論会」
@岡本の邸宅
リオ「事務所は三ヶ所あるんだ。似たような名前なんだから、よく間違えられるんだけどさ。一つは、ジェーアール大阪環状線の天満駅と地下鉄堺筋線の扇町駅に近い、天満事務所。もう一つは、ジェーアール東西線の大阪天満宮駅と、地下鉄堺筋線と谷町線が交差してる南森町駅に近い、天満宮事務所。あと一つは、京阪本線と地下鉄谷町線の天満橋駅に近い、天満橋事務所。魔の三角地帯、浪花のバミューダトライアングルとでも呼ぼうか。とにかく、ゴチャゴチャしたところだから、ゴタゴタが多くて、なかなか儲かってるよ。忙しいから、つい、事務所で寝泊りしてしまうんだけど、最近は、ちょくちょく娘の様子を伺うようになってさ。いや、目当ては、たっくんのご子息の和泉くんなんだけどね。聞いてる、たっくん? というか、聞こえてる? もしもぉし」
タカムネ「えぇ。天満は、造幣局の通り抜けが有名だな。あぁ。八重桜は、華やかだ。パッと咲いて、パッと散る。うぅ」
リオ「これは、駄目だ。昔の通産大臣みたいになってる。飲ませすぎたな。ここは、ワインを寝かせるには最適だけど、人間が寝るには寒すぎる。応接間に戻ろう。立てるかい、たっくん?」
タカムネ「ウム。昔は、良かった。ソメイヨシノが見頃になると、和菓子屋で団子や桜餅を買って、夙川公園で花見をしたものだ。オアシスロードの桜並木。桜のアーチ、花びらの絨毯、川面の花筏。葉桜、そして鯉流し。おぉ。どこで、すれ違ってしまったのだろう?」
リオ「親子で、膝を突き合わせて話し合ってみたら良いんだよ。何なら、俺や敦子も同席するし。ねっ? よし。そうと決まれば、善は急げだ。よっこい庄一っと」
リオ、タカムネを担ぎ上げる。
*
@天満の事務所
ヨウゾウ「まさか薬袋さんが、敦子ちゃんのお父さんだったとは」
リオ「不思議なものだよ。縁は異なもの、味なものとは言うけどさ」
ヨウゾウ「それで、丸く収まったんですか?」
リオ「大団円だよ。そのあと、パート帰りの月子が合流して、和泉くんのママがママさんコーラスから帰ってくるころには、たっくんの酔いも覚めたから、七人で夕食を囲みつつ、本音をぶつけ合ってね。包み隠さず、徹底的にディベートして、東の空が白み始める頃には、蟠りが無くなったよ」
ヨウゾウ「長丁場ですね。よく、まとまりましたね」
リオ「そこは、この俺の爽やかな弁舌のおかげさ」
ヨウゾウ「さすがですね。(お手伝いさんが助け舟を出したらしいけど、それは言わないでおこう)」
リオ「いやぁ、それほどでも。――それは、それとして。エルエスの話は、どう考えてるんだい? まだ保留にする気かな?」
ヨウゾウ「いえ。決心が付きましたので、お願いします」
リオ「そうか。頑張ってみる気になったか。よろしい。手助けはするが、道は険しいから、覚悟したまえ。それでは、こちらで資料を揃えておくから、今度は実印を持ってくるように」
ヨウゾウ「はい」
リオ「尾崎くんも和泉くんも忙しくなるだろうから、これをお願いするのも、これが最後かな。はい、テープ」
ヨウゾウ「お預かりします。それでは、失礼します」
ヨウゾウ、退室。
リオ、立ち上がって窓辺へ行き、指でブラインドを押し下げ、遠くを見る。
リオ「大阪城公園から桜ノ宮にかけては、観光客で賑わってることだろうな。そして来月には、この辺も騒がしくなるぞ」




