表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/44

#033「深い眠り」

@なぎさ銀行京町筋店

カズアキ「だから無理するなって、釘を刺しておいたのに。まぁ、俺も便利に使い過ぎたかもしれないけどな」

イヅミ『用事半分で出てきてしまったようなのですが』

カズアキ「デスクを見れば分かる。残業する気満々だったようだな。まったく。有給は使わないと、常温に放置したドライアイスが昇華するのと同じように、いつの間にか消えてしまうというのに」

イヅミ『真面目で、一生懸命なんですよね。たまに休息を取ったくらいでは、誰も怠惰だとは思わないのに』

カズアキ「あぁ。溜まった仕事の片付けと、有給の申請は俺が引き受けるから、しっかり休んで、万全の状態で、満を持して出勤するように。そう伝えてくれ」

イヅミ『はい。お伝えします』

カズアキ「手厚く看病してやってくれよ。それじゃあ、切るぞ」

カズアキ、受話器を置く。

カズアキ「さぁて。本来、中嶋がやるべき仕事は、このうちの何割だろうな」

  *

@鷹取のアパート

イヅミ「しかめっ面だ。そんなに眉間に皺を寄せてると、美人が台無しですよ」

イヅミ、眉間を指で突く。

イヅミ「ハの字眉毛は、困り顔。フフッ」

アツコ「ンンッ」

イヅミ「起こしちゃったかな? ……いや、寝てるね。今のうちに、買い物に行ってこよう」

  *

イヅミ「八つに切ったから、あと二羽か。――うさぎ、うさぎ。何見て、跳ねる?」

アツコ「十五夜、お月様、見て跳ねる」

イヅミ「起きましたか。具合は、どうですか?」

アツコ「寝てるあいだに、うさぎが七羽」

イヅミ「六羽ですよ。ナイフ、お借りしてます」

アツコ「いいえ、七羽よ。人語を操り、器用に林檎を剥く、美味しそうなうさぎが」

イヅミ「食べるなら、こちらの六羽にしてくださいね。僕は、お粥を温めて来ますから」

  *

イヅミ「連日、夜遅くまで働き続ければ、身体を壊します。機械だって、金属疲労するでしょう? ――おかわりしますか?」

アツコ「もう、充分よ。ごちそうさま。――頼りにされてるから、期待に応えなきゃ」

イヅミ「敦子さん。スキルやキャリアを向上させるために、せっせと自分磨きをするのは結構ですけど、程々にしないといけませんよ。手帳にスケジュールを詰め込んで余白を埋めれば、無駄がないように感じるでしょう。でも、それは勘違いです。容積いっぱい、百パーセント詰め込まれた引き出しは、とっても使い辛いでしょう? 取り出しやすさや見やすさを考えて、せいぜい七十パーセントまでに抑えたいところです。命あっての」

アツコ「物種、ね。分かっちゃいるんだけど、ボーっと出来ないのよ、性格的に」

イヅミ「視点を変えましょうか。何か趣味は、ありますか?」

アツコ「強いて言うなら、資格取得かしら」

イヅミ「そんな予感は、薄々していました。とりたてて趣味が無いなら、絵を描くのを趣味にしませんか? 教える約束もありますし」

アツコ「すっかり忘れてたわ。そういえば、そんな約束をしてたわね。そうね。教わろうかしら。ハワワ。お腹が膨れたら、眠くなってきちゃった」

イヅミ「お疲れなんでしょう。僕に任せて、ゆっくり、お休みなさい」

アツコ「おやすみなさい」

イヅミ「よい夢を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ