#032「おやすみ」
@北野坂おえかき教室
ナオミ「そうですか。連絡、ありがとうございます。お大事に」
イヅミ「今の電話、どなたからですか?」
ナオミ「森さんです。森家全員、外出禁止なんだそうです」
イヅミ「豊太郎くんだけではなくて、かもめちゃんもインフルエンザですか」
ナオミ「そのようです。熱やダルさは無いらしいんですけど、ドクターストップが掛かってるらしくて。残念がってるみたいですよ」
イヅミ「感染が拡大するといけませんからね」
ナオミ「でも、二人には辛いでしょうね」
イヅミ「特に、かもめちゃんは、ストレスが溜まってるでしょうね」
ナオミ「あぁあ。次のレッスンまで、急にポッカリと空き時間が出来ちゃったわ」
イヅミ「僕は、もうレッスンが無いんですよね。レッスンノートも、記入が終わってるし」
♪電話の着信音。
ナオミ「誰からだろう?」
イヅミ「今度は僕が出ますよ。――もしもし。北野坂おえかき教室です」
ツキコ『助けて、いっくん』
イヅミ「(何で職場の番号を知ってるんだろう?)どうしたんですか、そんなに慌てて?」
ツキコ『敦子が高熱を出して寝込んでるの。でも、ママはパートに出なきゃいけないから、面倒見られなくて。お願い。今すぐ鷹取まで来て』
イヅミ「それは大変ですね。すぐ、伺います」
ツキコ『ありがとう。鍵は封筒に入れて、集合ポストに置いておくから』
イヅミ「わかりました」
ツキコ『頼んだわ。それじゃあ』
イヅミ「失礼します。ごめんくださいませ」
ナオミ「誰からですか?」
イヅミ「敦子さんを覚えてますか? 以前、三宮地下街で会った」
ナオミ「あぁ、なぎさ銀行で、一陽さんの部下の。その彼女からですか?」
イヅミ「いえ。彼女が高熱を出して寝込んでると、彼女のお母さんから」
ナオミ「あらあら。一大事ね」
イヅミ「それで、早退して看病に行ってあげようと思うのですが」
ナオミ「そんな不安そうな目で見ないでください。大丈夫ですよ。教室のことは、この尚美に任せなさぁい」
イヅミ「何かあったら、すぐに知らせてくださいね。お先に失礼します」
*
@鷹取のアパート
イヅミ「熱が出たってことは、オーバーワークだって証拠ですよ、頑張り屋さん」
アツコ「ムム。体調管理も、仕事のうちなのに」
イヅミ「今は、仕事のことは忘れましょうね」
アツコ「でも、用事半分で放置して来ちゃったから、連絡しないと」
イヅミ「それも、僕が代わりますから。電話、お借りしますね」
アツコ「わたしが、や、ゴホッ、ゴホッ」
イヅミ「起きちゃ駄目ですよ。今は何も考えず、横になって、お休みなさい」
アツコ「グスッ。おやすみなさい」




