#026「そうね」
@伊丹のハイツ
ナツメ「そうね。喧嘩するほど何とやらとは言うけど、しないに越したことないわね」
アツコ「したくてした訳じゃないわよ」
ナツメ「そうね。あっちゃんは、お母さんから、一方的に、価値観を押し付けられたんだもんね」
アツコ「いや。一方的って訳でもないわ」
ナツメ「そうね。あっちゃんにも非があるわね。自分の認められるなんて、なかなか出来ることじゃないわ。偉いわね」
アツコ「別に、偉くないわ。当然よ」
ナツメ「そうね。出来て当然ね。そして、そういう当たり前なことほど、歳を重ねると出来なくなっていくものなのよね」
アツコ「わたしも、なっちゃんみたいに、他人の意見を肯定出来る人間になりたかったわ。わたしったら、いつも批判や否定してばかりだもの」
ナツメ「そうね。一度、他者を受け容れてみることは大事よね。硬すぎると、かえって脆いわ。柔よく剛を制す、よ」
アツコ「わたし、どうしたら良いのかしら?」
ナツメ「そうね。案ずるより産むが易しというわ。実際に和泉くんを招待して、どういう反応をするか確かめてみたら?」
アツコ「そうね。そうするわ」
ナツメ「それじゃあ、この話は、これでオシマイね」
♪玄関チャイムの音。
ナツメ「誰かしら? (明日は朝が早いから、これ以上は勘弁してほしいのに)」
*
アツコ「お母さん、もう怒ってないかしら?」
リオ「いやぁ。月子は端から怒ってないさ。むしろ、敦子のことを心配してるだろう。――悪いね。親子喧嘩に巻き込んでしまって」
ナツメ「いいえ。お気になさらず」
アツコ「ごめんね、なっちゃん。他に、遠慮なく相談できる人間が居れば良いんだけど」
リオ「たしかに、そうだ。そうそういつも、幼馴染に厄介を掛けてばかりいてはいけない」
ナツメ「そうね。あっちゃんには、あたし以外にも誰か、気の置けない相手が必要だわ。でも、もうすぐ出来るわよ」
アツコ「そうかしら?」
リオ「その気になれば、すぐに出来るさ。――それじゃあ、お邪魔さま。失礼するよ」
ナツメ「おやすみなさい。良い夢を」
アツコ「おやすみなさい。なっちゃんも、良い夢を」
*
ナツメ「もし、あっちゃんが和泉くんと何でも気兼ねなく話せるようになったら、あたしに相談して来なくなるのかしら? 幼馴染として嬉しくもあるけど、同時に寂しくもあって……。そうね。そうそう都合よく、二つ良いことは無いわよね。――よし、寝よう」




