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#024「陰口」

@岡本の邸宅

セイコ「どの面下げてノコノコ帰って来たのよ。いまさら話すことは何も無いわ。それと。どこの小娘か知りませんけど、財産目当てなら他を当たってちょうだい」

イヅミ「お母さん。僕のことは良いとしても、初対面の敦子さんに向かって、そんなことを」

アツコ「あら、財産目当てで結婚なさったんですね。ご苦労さま」

セイコ「誰が、そんな下心で結婚するものですか。不愉快だわ」

イヅミ「ちょっと待って。ここは冷静に」

アツコ「わたしは、至極、冷静よ。――自分がそうだったから、相手もそうだろうと思って言ったのではなくて? 語るに落ちましたね」

セイコ「キッ。――国北っ」

アユミ「はい、奥様」

セイコ「二人とも、お帰りだそうよ。お見送りして差し上げて」

アユミ「承知いたしました。――どうぞ、こちらへ」

イヅミ「まだ、何も話してないのに」

アツコ「たくさんよ。これ以上は、言うだけ無駄だわ。お暇しましょう。――それでは、聖子さん。また近々おあいしましょう。ごきげんよう」

  *

アツコ「離れまであるのね。このお部屋は、和泉さんのお部屋なの?」

イヅミ「そうです。母屋のほうにも、もう一部屋ありますけどね。ここは、今は物置代わりにしてるんです。たまに、両親が居ないときを見計らって帰ってきては、こっそりと置いて帰ったり、持ち出したりしてるんです」

アツコ「実家なんだから、堂々とすればいいのよ。小心者ね」

イヅミ「返す言葉もございません。心強い限りです。けど」

アツコ「けど、何よ?」

イヅミ「ちょっぴり怖かったかな。そばにいて、冷や冷やしました」

アツコ「あれくらい、なんてこと無いと思わなくちゃ。まだまだ序の口、前哨戦よ。びびるのは、まだ早いわ」

イヅミ「タフですね」

アツコ「職場が職場だもの。嫌でもタフになるわ。長く金融界に居るとね、資産を巡って様々な人間ドラマを見せられるのよ。下手な芝居より面白いくらいにね。――中ボスに怯むな、勇者よ。まだ父親というラスボスが控えておるのじゃろう?」

イヅミ「急に長老になりましたね。ハァ。考えただけで、口からハートが飛び出そうです」

アツコ「交換する? ガラスのように繊細でツルツルな和泉さんのと違って、わたしのは鉄のように頑丈でワサワサと毛が生えてると思うけど」

イヅミ「謹んで遠慮します」

アツコ「あら、残念。ところで。さっき、国北さんにヒソヒソと話してたけど、何をお願いしたの? 返事を聞いたとき、やけに嬉しそうだったじゃない」

イヅミ「フフフ。国北さんが戻ってきたら、二秒でわかりますよ」

  *

アユミ「お持ちしましたよ、坊っちゃん」

イヅミ「ありがとう。下がっていいよ」 

アユミ「はい」

アユミ、退室。

イヅミ「はい、敦子さん」

アツコ「和泉さん。まさか女性であるわたしに、この紺の詰襟を着ろというの?」 

イヅミ「男性である僕に、紺のセーラー服を着せたのは誰ですか?」 

アツコ「わたしじゃないわよ」

イヅミ「たとえ傍観者でも、共犯関係です。僕は、ここを出てすぐの廊下で待ってますから。終わったら、すぐ知らせてくださいね。あっ。言っておくけど、ここは二階で、あの出窓の下は池だから、変な気を起こさないほうが良いですよ」

アツコ「あぁ、もぅ。着れば良いんでしょう、着れば。(覚えてなさいよ、各務和泉)」


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