#023「裏口」
@岡本駅
イヅミ「厳格で家庭を顧みない父と、冗談一つ言わない面白みに欠ける母」
アツコ「そして二人の背中を見て育った、心優しい息子」
イヅミ「両親が極端なのであって、僕は至って普通ですよ。それに、ほとんど国北さんに育てられたようなものですから」
*
@岡本の邸宅
アツコ「ずいぶん北へ上がったわね。タクシーで移動するとは思わなかったわ。さすが、ブルジョワジー。階級格差が凄いわ。プロレタリア革命してやろうかしら」
イヅミ「これでも少なくない額の税金を納めてますから、大目に見てくださいな」
アツコ「ホンット、胃が痛くなりそうなほど広いんだから。門扉や庭がある時点で居たたまれないわ。しかも、お手伝いさんがいるなんて。でも、ここまできたら、ドーベルマンが出てきても驚かないわ」
イヅミ「さすがに、ドーベルマンは飼ってませんよ。ラフコリーなら、一時期、親戚から預かってましたけど」
アツコ「似合いそうね。名犬だった?」
イヅミ「ううん。オスだったし、まだ小さかったから、ヤンチャでしたよ」
アツコ「これだけ広ければ、散歩やドッグランに連れて行く必要ないわね。名前は?」
イヅミ「アレグロ。元はアレックスだったんですけど、身のこなしが軽快で、逃げ足の速く、剽軽者だったので、途中で変えたんです。敦子さんは、何か動物を飼ったことありますか?」
アツコ「三毛猫を拾ったことがあるわ。後ろ足を怪我してたから、手当てしてあげてね。でも、包帯が取れるやいなや、すぐに脱走しちゃったの。薄情者よ」
イヅミ「ハハッ。推理一つしてくれなかったんですね」
アツコ「披露してくれなかったわ。わたしが刑事じゃないからかしら?」
イヅミ「事件が無かったからかもしれませんよ。――あっ」
アユミ「まぁ、坊っちゃん。おかえりなさいまし」
イヅミ「ただいま。二人は?」
アユミ「旦那様はまだお戻りになってませんけど、奥様はご在宅です」
イヅミ「一階? 二階?」
アユミ「お二階のほうに」
イヅミ「フゥン。今日はバルコニーなのか」
アユミ「先に、わたしから伝えましょうか?」
イヅミ「ううん、僕から言うよ。ありがとう」
アユミ「それで、坊っちゃん。そちらの方は?」
アツコ「はじめまして。和泉さんとお付き合いさせていただいている、中嶋敦子です」
アユミ「こちらこそ、はじめまして。このお屋敷の家事全般を手伝っている、国北亜弓です」
*
イヅミ「ねっ。言った通りだったでしょう?」
アツコ「本当ね。パッと見では、いくつか判らないわ」




