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#020「ステップ」

@御影の文化住宅

イヅミ「そのゲーム、まだ続いていたんですね」

ヨウゾウ「サイモンはゲームを辞めよと言ってない」

イヅミ「いつの間に船長になったんだか。――あっ、電話だ」

  *

イヅミ「このまま、他人の関係に逆戻りしたくありません。仲直りしましょう。……はい。分かりました。三宮で会いましょう」

ヨウゾウ「ヒュー、ヒュー。カッコいいぞ、和泉くん」

イヅミ「茶化さないでくださいよ、先輩」

ヨウゾウ「これで俺は枕を高くして眠れるし、各務は枕を濡らさずに済む」

イヅミ「泣いてませんよ」

ヨウゾウ「強がるなって。さてと。一件落着したところで、俺は帰るとするか。邪魔したな」

イヅミ「本当に、何も相談しないで帰るんですね」

ヨウゾウ「テープと、起こした原稿さえ回収できれば、それで良いんだ。それに各務には、色々と考えなきゃいけないことがあるだろう? どんな格好で会うかとか、会って開口一番に何を言うかとかさ」

  *

@新開地駅

アツコ「ここで乗り換えるわ」

イヅミ「長田は長田でも、神鉄長田なんですね」

アツコ「仮説住宅を出てすぐは、新長田駅と高速長田駅のあいだだったんだけど、わたしが一人暮らしを始めてから、夫婦二人で住むのに手頃な物件に引っ越したのよ。震災の後に建て直されたマンションで、間取りは二ディーケー。南向きベランダありで、陽当たり良好」

イヅミ「不動産屋さんの紹介みたいなことを言いますね」

  *

@神鉄長田駅

アツコ「両親は反面教師ね。フラフラしてる父親と、ちゃらんぽらんな母親」

イヅミ「そして二人の背中を見て育った、堅実な娘」

アツコ「両親が異常なのであって、わたしは至って普通よ。あぁ、そうそう。何があっても、己の貞操は自力で防衛するように」

イヅミ「それは、どういう意味ですか?」

アツコ「説明するより、実際に体験したほうが早いわ。会って二秒で理解できるから」

イヅミ「百聞は一見に如かず、ですか。そら恐ろしいな」

  *

@阪急塚口駅の蕎麦屋

ヨウゾウ「それだけで足りるのか?」

ナツメ「えぇ。実は、ここのところスイーツの食べ過ぎで、制服のウエストがキツくなってしまって」

ヨウゾウ「一サイズ大きな服と換えてもらえば?」

ナツメ「昨年の秋に換えてもらったので、今年はキープしたくて」

ヨウゾウ「なるほど。でも、無理するなよ。介護する側が倒れたら、洒落にならない」

ナツメ「そこまで無理しませんよ。あっちゃんと違って、我慢強いほうではないもの」

ヨウゾウ「それじゃあ、じきにファスナーやボタンが駄目になりそうだ」

ナツメ「もぅ。この話はココまで。作戦会議に戻すわ」

ヨウゾウ「ラジャー」


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