#020「ステップ」
@御影の文化住宅
イヅミ「そのゲーム、まだ続いていたんですね」
ヨウゾウ「サイモンはゲームを辞めよと言ってない」
イヅミ「いつの間に船長になったんだか。――あっ、電話だ」
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イヅミ「このまま、他人の関係に逆戻りしたくありません。仲直りしましょう。……はい。分かりました。三宮で会いましょう」
ヨウゾウ「ヒュー、ヒュー。カッコいいぞ、和泉くん」
イヅミ「茶化さないでくださいよ、先輩」
ヨウゾウ「これで俺は枕を高くして眠れるし、各務は枕を濡らさずに済む」
イヅミ「泣いてませんよ」
ヨウゾウ「強がるなって。さてと。一件落着したところで、俺は帰るとするか。邪魔したな」
イヅミ「本当に、何も相談しないで帰るんですね」
ヨウゾウ「テープと、起こした原稿さえ回収できれば、それで良いんだ。それに各務には、色々と考えなきゃいけないことがあるだろう? どんな格好で会うかとか、会って開口一番に何を言うかとかさ」
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@新開地駅
アツコ「ここで乗り換えるわ」
イヅミ「長田は長田でも、神鉄長田なんですね」
アツコ「仮説住宅を出てすぐは、新長田駅と高速長田駅のあいだだったんだけど、わたしが一人暮らしを始めてから、夫婦二人で住むのに手頃な物件に引っ越したのよ。震災の後に建て直されたマンションで、間取りは二ディーケー。南向きベランダありで、陽当たり良好」
イヅミ「不動産屋さんの紹介みたいなことを言いますね」
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@神鉄長田駅
アツコ「両親は反面教師ね。フラフラしてる父親と、ちゃらんぽらんな母親」
イヅミ「そして二人の背中を見て育った、堅実な娘」
アツコ「両親が異常なのであって、わたしは至って普通よ。あぁ、そうそう。何があっても、己の貞操は自力で防衛するように」
イヅミ「それは、どういう意味ですか?」
アツコ「説明するより、実際に体験したほうが早いわ。会って二秒で理解できるから」
イヅミ「百聞は一見に如かず、ですか。そら恐ろしいな」
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@阪急塚口駅の蕎麦屋
ヨウゾウ「それだけで足りるのか?」
ナツメ「えぇ。実は、ここのところスイーツの食べ過ぎで、制服のウエストがキツくなってしまって」
ヨウゾウ「一サイズ大きな服と換えてもらえば?」
ナツメ「昨年の秋に換えてもらったので、今年はキープしたくて」
ヨウゾウ「なるほど。でも、無理するなよ。介護する側が倒れたら、洒落にならない」
ナツメ「そこまで無理しませんよ。あっちゃんと違って、我慢強いほうではないもの」
ヨウゾウ「それじゃあ、じきにファスナーやボタンが駄目になりそうだ」
ナツメ「もぅ。この話はココまで。作戦会議に戻すわ」
ヨウゾウ「ラジャー」




