#009「小芝居」
@若松公園
ナツメ「ガオー」
アツコ「何も、モニュメントと同じポーズをとらなくたって」
ナツメ「退屈しのぎよ。さぁ、ご一緒に」
アツコ「遠慮するわ。同類だと思われたくないもの」
ナツメ「ノリが悪くなったわね、支店長代理殿。いささか天狗ではござらんか?」
アツコ「昔と変わらないわよ。過去を改変しない、のっ」
ナツメ「アウッ。デコピンの痛さは昔のままだわ」
アツコ「額の硬さもね。指が痛いわ。――あっ。アレかしら」
*
イヅミ「ほら、待たせてますよ。走ってください」
ヨウゾウ「無理言うなよ。老骨に鞭打たせやがって」
イヅミ「歳は僕と大して変わらないでしょう。日頃の不摂生が祟ってますね。お酒と煙草は控えた方が良いですよ。あと、毎日、軽い運動をなさると良いですね」
ヨウゾウ「いつから俺の主治医になったんだ」
イヅミ「本物の主治医なら、この程度の忠告では終わりませんよ。念のため、シーティーとエムアールアイで検査しましょう。造影剤は、バナナ、ココア、イチゴ、バニラ。何味が良いですか?」
ヨウゾウ「やめろ。人間ドックを思い出すだろうが」
*
イヅミ「下から見上げると圧巻ですね」
アツコ「直立すると、十八メートルの高さになるんですよ」
ヨウゾウ「これを簡単なコントローラーひとつで動かす小学生が凄いのか、指示を理解するロボットの人工知能が凄いのか」
ナツメ「まぁ、フィクションですから。現実に動かそうとすれば、電気代だけでも凄いことになりそうです」
イヅミ「これが二十八体目だとすると、あとの二十七体は失敗作ということなんでしょうか?」
アツコ「さぁ。そこまでは」
ヨウゾウ、ナツメに耳打ち。
ヨウゾウ「作戦エーを始める」
ナツメ「了解」
ヨウゾウ、座り込む。
ナツメ「どうしました、尾崎さん?」
ヨウゾウ「誰かさんに走らされたから、空腹で。腹の皮が背中とくっつきそうだ」
イヅミ「誰かさんが、僕との待ち合わせ時間に起きるから」
アツコ「その様子ですと、起きてから何も召し上がってなさそうですね」
ナツメ「ちょっと早いですけど、お昼にしましょうよ。近くに、そばめし発祥のお店があるんです」
ヨウゾウ、立ち上がる。
ヨウゾウ「おっ、良いな。こっちか?」
ナツメ「いえ、こっちです」
ナツメ、ヨウゾウの手を引く。
ヨウゾウ「土地勘が無いと、方向音痴な誰かさんでなくても迷いそうだ」
イヅミ「ひと言余計ですよ、尾崎先輩」
ナツメ「でも、迷子になってからでは遅いですからね。手を繋いでおいた方が良いわ、あっちゃん」
アツコ、イヅミと見つめ合う。
ヨウゾウ「照れてる場合か、各務。さっさと右手を差し出せ」
イヅミ、アツコと手を繋ぐ。
ヨウゾウ、ナツメに耳打ち。
ヨウゾウ「作戦エー、成功」