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2/5

一つ摘んでは父の為








朝起きた





寝坊した




慌てて家を出た




家を出た先は異世界だった。







「ああ、瑠璃子さん!

貴方とこうする事が夢だったんですよ」


家を出てすぐ先の、お向かいのお宅の玄関先で、家主の妻である田中瑠璃子は、夫ではない別の男性と性行為に励んでいた。


閑静な住宅外の、それぞれの庭と道路を挟んだ20メートルばかり離れた距離の先で濡れ場がおっ広げられていた。

見てはいけない現場を見てしまった。


俺は家を出て僅か数秒のところで早くも足を止めていた。

今すぐ足を前に運ばなければ遅刻確定である。


でも、思春期真っ盛りな俺は、目の前で盛大に公開されているリアルの不倫現場を前にして、少し興奮していた。

大スキャンダルである。

特に股間が。



うん、もう遅刻でもいいや。


などと呑気に考えている間に行為は盛り上がりを見せて、フィナーレを迎えようとしていた。

よく見ると男はナイフを握ったまま腰を振っていた。

奥さんの顔は涙でぐしゃぐしゃだった



俺の見間違いでなければ多分強姦だろう。

自分は何を呑気に構えていたのだろうか?


通報しなくては、とも思ったのだが、

突然の自体に頭が混乱して、結局足は動かないままだった。

それまでピンク色だった脳内が、一瞬にして真っ白になっていた。

ぼう然と立ちすくんでいるうちに、行為は終わっていた。


男が女の最奥を貫いているうちに、手に握り締めていた刃物も心臓を刺し貫いていた。

俺の視界が真っ赤に染まった。


真っ赤な視界に真っ赤な太陽

真っ白な心で真っ青な貴方をお出迎え♪


田中瑠璃子は死んだ。

ついでとばかりに財布の中身を取り上げられて。

世に言われる強盗強姦殺人事件である。

俺の見間違いでなければ、だが…。



とまぁそんな具合で

朝起きたら玄関の向こうが異世界だった。

俺の見間違いじゃなかったら。

見間違いだったら良かった?

見間違えなら嬉しかった。

見間違いでないことが悲しかった。


突然の重大事件を前にして足元が竦んでいた。

それでもよせばいいのに足は前に踏み出していた。


よく見れば強姦殺人の現行犯は俺の親父だった。

さすがの視力0.1でも見間違えようがなかった。

それでもこの目を疑いたかった。

まさか自分がとんでもない事件になるであろう、疑う余地のない容疑者の息子になるだなんて思いもしなかった。

目の前が真っ暗になった気がした。

少なくとも自分の人生のお先は真っ暗だとも思った。

こんな時でも自分の将来の事とか考えてしまっている自分が、ひどく自分勝手なずるいヤツに思えて、そんな自分が嫌になった。


 でも、それすら現実逃避だっていうことはちゃんと分かってたから。

自分はこんな事態に、立場に立たされても冷静に動けるんだって思いたかったから、

取り敢えずスマートフォンを手に取って、犯罪者の父へと言葉を投げかける。


「…とりあえず救急車を、あと警察も呼んでおくから、逃げたりしないでよね父さん」


「ん、どうした燈雁よ?

ああ、そんな心配そうな顔をするな。

大丈夫だ、父さん今日まで童貞だったから。

カミサマも一度くらいは見逃してくれるって言うし」


「―ッ!何をおかしなことを言っているんだあんたは!」


 何が童貞だよ?ふざけてるんじゃねぇぞ?

お前が童貞なら俺は一体どっから湧いて出て来たんだよ?

お前らのうんこから湧いた蛆だとでも?

ああ、この際じつはウジ虫だったとかならある意味幸せだったかもね。

なぜならこんな頭のおかしな犯罪者の息子じゃなかったってことなんだから。


 こんな時でもふざけて見える戸籍上の父親に対して、怒りと殺意すら湧いてくるが

殴り掛かる寸前になって足元で大量の血を流して横たわっている女性の姿で我に返り

急いで警察と救急車の手配をする。


「あ、もしもし救急車を急いでお願いしたいんですけど

己午路市の水二永島町 十三番地なんですけど、至急お願いします!

人が死んでしまいそうなんで!」

「は、はあ」


 ええい、なんなんだ、この救急隊員は!

こっちは大変な事態に陥っているというのに、人の気も知らないでそんな覇気の無い声を

そうだ、自分でも何か、応急手当てを

何かできることはないのか?


「おいクソオヤジ

家から救急箱…ってコイツじゃだめだ

ああ、その前にまず警察にも……一体どうしたら!」


「え?あ、うんそうだね。

まずは警察だね。

でも、救急車は呼ばなくてもよかったと思うよ。

と言うかか呼ばれたら困るし

それより学校に行かなくていいのかい?」



 流石に我慢の限界だった。

全力で顔面目がけて拳をぶち込んだ

面白いぐらいにオヤジは吹き飛んでいった。

それでも気分は全然晴れるどころか、どんよりとドス黒いものが、俺の胸の中でドスンと座して占領を始めたぐらいだ。

いっそ火が付けばこのまま爆発してしまいそうな勢いで、あふれ出る怒りが言葉にならない形となってあふれ出た



「あ あ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―ッ!」


取り敢えずそのまま三回くらい蹴とばした後、最優先事項である応急手当を行うことにした。



― と、取り敢えず止血を

邪魔なナイフを抜き取った瞬間、バカみたいな量の血があふれ出た。


「あ、アレ、え、何で?どうして?」





血が

ちが

違が

チガ



圧迫して止血したんだ、血は止まらなかった。

心臓をマッサージしたんだ、血は止まらなかった

人工呼吸したんだ、血は止まらなかった。



「…もう止めときなよ、もう死んでる

というか殺したの僕だし、キッパリ死んでもらわないと」


 どうしてオヤジは平然と人を犯し、殺せたのだろう?

なぜオレはこんな人間の息子に生まれてきたのだろう?

彼女はどの様な理由でこのオヤジに殺されてしまったの?

もう彼女は旦那と幸せな毎日を過ごすことが出来ないの?

明日はどんな一日何だろう?

明日からどんな顔して生活すればいいんだろう?

分からない?

死んだ?

ワカラナイ?

シンジャヤダ?

ヤダ

yadda

yadda

yadda?

やだ?

死んだ

ヤダ



どうしてこんな異常者が身近にいたことに気が付けなかったのだろう?

どうしていつもの通り起きられなかったのだろう?

なんですぐにでも引き止められなかったのだろう?

ナンデ

ナゼ?

ドウシテカナ?

ワカラナイ?

Woulda,

Coulda,

Shoulda,

shut up



いつの間にか警察が来ていた

俺の手は真っ赤に染まっていた。

違う!俺が犯人じゃない!







 たまらず俺は走り出した

視界は涙で歪んでいた。

きっと何かの見間違いに決まっている。

絶対にそうだ。


この乾いてべた付いた不快な手の上の感触も

あの生暖かく、生臭い感覚も

きっと気のせい



 いつの間にか俺の足は学校にまで伸びていた。

きっとこの中では昨日と同じ、いつもと同じ退屈な、でも心地よい日常が待っていることを信じて

俺は一歩踏み出した――――











―――――― うぉぉぉおおおおお!リア充はシねぇぇえええ!






「え?」


 校庭から、知らない生徒が飛び出してきた。

しかも鈍器のようなものを片手に。

一体何事だというのだろうか?


 あんな危険そうなスポーツの存在を、なぜこの学校は静観しているのか?

教育委員会は何をしているの?

ねぇ、その目の先にはどうして俺が映し出されているの?


 鈍器が、俺に振り下ろされるまさにその数瞬

体は考えるよりも早く迅速に回避行動をとり、その腕は流れるような自然な仕草で右手に握ったナイフを彼のガラ空きの左湧きにつがえ、切り裂いた。


毛細血管がいっぱい詰まってる所、脇から大量の血が噴き出た

おめでとう、相手は死んだ。


俺は、その日ハジメテヒトヲコロシタ。


ヒトヲコロシタ

こうもあっさりと

あれだけ否定した人殺しを

オレはヤってしまったんダ



 教師が青い顔をしてこちらを見ている

そりゃそうだ、親子そろって殺人者の生徒が学校に在籍していた日には周囲の眼なんかこんな物

正真正銘の異常者様のご入来だ、来賓の方は拍手で迎えましょう。


はは、ははは。

そうだ、これはきっと夢なんだ。

現実感がない、体が軽い。

気持ちは風に舞う蝶のように取り止めもなく、心の水面は揺蕩う夢の中の現実。

一周回って高揚感すら感じられる。


どうしてしまったのだろう自分は?

こんなにも異常な現実を前にして頭がおかしくなってしまったのか?

いや、頭がおかしくなったからこそこのような夢を見ているのか?

分からない?ワカラナイ…






「おヤ、君は五十嵐 燈雁(ひかり)か?

なんだ、また遅刻か。

さてはまた今日も誰か()ッて来たんだな?

まあお前のような選ばれし者は他の人間とは生まれながらにして価値が違うからな。

今回だけは多めに見てやるか?」



マタキョウモダレカヤッタ


今日もまたヤッた


殺った


また今日も誰かを殺した

いつもと同じように(・・・・・・・・・)殺した(・・・)

つまり俺は毎日殺してる。

日常的に殺してる異常者

日常的に殺しを楽しむ異常者の俺。



 ああ、なるほど、そういうことか。

よく見れば、彼女の瞳の奥には何やらアラビア数字のようなものが浮かんでいる。

でもそれは数字ではない、でも感覚的にあと何人か分かる(・・・・・・)

彼女はあと3人殺せるのか。


どうして俺はこんな大事なことを忘れて朝から過ごしていたのだろう?

やっぱり今日は起きてから暫く、頭がどうにかしていたようだ。

でもたぶん、本当の意味での俺の求めていた日常は、今朝から始まったばかりなんだ。


 だからこそ、俺はあえてこういう言い方をすべきだろう。



「朝起きたら、誰でも最低一回は自由に人を殺せる世界に変わっていましたよっと」





― 俺の望んだ通りにね

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