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転生×召喚 〜職業は魔王らしいです〜  作者: 黒羽 晃
二章『初めて会った時から』
9/25

9話

 運が悪かった。そう言わざるを得ない光景。

 周りにはついさっきまで生きていたクランのメンバーの死体が、無残な姿で錯乱しています。

 この光景を生み出したのは、たった一匹の魔物。

 ギルド指定ランクC、オーガ。


 3mを越す巨体、浅黒い肌。非常に好戦的で、下手すれば討伐隊を組む必要がある。それ程の魔物。

 適正ランクDのこの森林に出て来て良い魔物では無いのですが、上手く人族に見つからずに進化したゴブリンが居たのなら、可能性自体は考えらます。


 ともかく、今はどう生き残るかだけを考えましょう。所詮私など、適当な数合わせの臨時メンバー。ランクは他の人より低いですから、囮に使われる可能性も高いでしょう。

 ですが、混乱しているこの状況でそんな判断が出来る人がいるか分かりませんし、まだ立っている者もいますから、私が真っ先に狙われる心配もしなくて良さそうです。


 ああ、また一人が死んだ。

 彼は、盾役のアルフレッドさんでしたか。気の毒ですが、私には助けられません。

 アルフレッドさんと好い仲だったラファエルさんが激昂し、オーガに炎魔法【蓮花(れんか)】を放ちます。オーガの肌が焦げて、ダメージが入ったように見えますが、直ぐに再生していくのが見て取れます。


 オーガの標的はラファエルさんに移り、喜色を湛えた表情を浮かべ、ラファエルさんの頭を吹き飛ばしました。

 しかし、ラファエルさんもかなりの実力者です。死ぬ直前に、光魔法を放ち、オーガの目を潰しました。


 今しかない。

 そう思った私は、他のメンバーがオーガを討伐する為に特攻するのを横目に、彼らに背を向けて逃げ出しました。

 戦闘による高揚か、誰も私の逃走に気が付きません。それをいいことに、私は全力で、戦場から離れます。

 あのオーガは、相当の修羅場をくぐり抜けてきたと言う、なんと言うか、貫禄がありました。クランリーダーのガストンさんみたいに、素人でも自分では勝てないと思わせる、重圧のようなものが。


 とは言え、そのガストンさんも上半身と下半身を別れさせてオーガの足元に転がっているので、既に見る影もありませんが。


 なんて事を考えていると、私の横を何かが通り過ぎて行きました。思わず足を止めて、そちらの方を見てしまいます。

 それは、腕でした。千切られた痕のある、頑強な右腕でした。

 背後から悲鳴が聞こえてきます。それが誰のものなのか、判断する余裕も、もうありません。


 雄叫び。

 もう相当離れている筈なのに聞こえる、ぐちゃりと言う鈍い音。

 もう全員死んでしまったのでしょう。見えていないのに、なぜかそう確信出来ます。


 重い足音。

 間隔が短く、かなりの速度で走って来ていると推測できます。

 死ぬ。

 絶対に避けられない、ほぼ確定した運命。


 思考する間にも足音は近づいています。このままでは、そう遠くなく、オーガに追い付かれて、他のクランメンバーのように潰されて殺されてしまいます。


 まだ、死にたくない。

 今はその思いだけで足を動かしている状態です。そして、それは長くは続きません。


 そして、遂にと言いますか、私は足を縺れさせて転倒してしまいました。

 私の後ろ。オーガは、あと数秒で私に到達し、その豪腕で私を虫のように押し潰してしまうのでしょう。

 もう後悔しても仕方はありませんが、やはり思い返す事はあって。


 どこで間違えたのでしょうか。

 何か悪い事をした覚えはありませんし、日頃の行いなんて言うなら、他に誰かいた筈です。私は至って真面目に生きて来ましたし、時に善行だってしていました。


 オーガの息が、あと数歩のところに感じられます。

 私の諦めの意を感じ取ったのか、一歩ずつ、距離を詰めて来ます。


 運が悪かった。


 私は覚悟を決め、オーガに振り返りました。オーガは巨大で、大木すらへし折れそうな腕があって。

 命を捨てた傍観者の目で見てみると、オーガと言うのは案外格好良い。全身に浴びた血や肉片も、それを引き立てるアクセントにしかなりません。


 でも、足りない。

 外面だけでは、その感想も空虚なものになってしまうと言うもの。

 このオーガには、知性が品性が、意志が、どうやっても足りなくて、今になってすら嫌悪感を感じます。


 オーガの顔に、微かな怒りが浮かびます。

 表情に出ていたのでしょうか、オーガにも分かるくらいに。


 どちらにしろ、結果は変わりませんね。

 オーガが振り上げた腕に力を込めます。あれが下された瞬間、私は死んで、オーガを飾るアクセントの一つになるんですから。


 私は精一杯表情を作って、笑ってやりました。

 運命に、クランメンバー達に、私に。

 ……オーガに。


 それが気に食わなかったのか、オーガは雄叫びを上げて腕を振り下ろしてきました。

 避ける気もありません。徒らに命を長らえたところで、結局は何も変わらないのですから。


 拳が私の顔に迫ります。やけにゆっくりに見えますね。確か、走馬灯と言うんでしたか? 死の瞬間に訪れると言う。

 だとしたら、迷惑なものですね。何の嫌がらせですか、自分の死をスローで見せられるなんて。

 そうだ、目を瞑ってしまいましょう。そうすれば、直ぐにこの瞬間も終わる筈。


 ……


 ……


 ……何も起きない?


 顔面に来る筈の衝撃も、何も、まるで止まってしまったかのように。

 もしかしたら、私はもう死んでしまっていて、ここは死後の世界だと言う事でしょうか?

 だとすれば私は、意外と幸せな死に方ができましたね。苦しまずに死ねたのですから。

 それにしても寒いですね。あの世とは、北の地にでもあるのでしょうか……?


 ゆっくりと目を開けてみます。

 すると、目の前には何故か(・・・)オーガの拳(・・・・・)があって、(・・・・・)寸止めされていました(・・・・・・・・・・)

 まさか、まだ一瞬も経っていないんですか!?

 ほんの一瞬、そんな考えが頭をよぎります。

 だって、私が目を閉じた時と全く変わらない形で、オーガの姿があったのですから。


「……大丈夫か?」


 混乱している私に、オーガの方から声が聞こえて来ました。


 オーガが喋った?


 なんて馬鹿らしい事を思った直後に、私はオーガが止まっていた理由に漸く気がつきました。

 凍っているのです、オーガが。


 亀裂が入る音の直後、オーガの氷像が崩れました。

 それは、私にとっての救いの音であり、オーガへの鎮魂の音。


 その光景は、まるで幻想的で……


「…………きれい」


 ついさっきまで命の危機であった事も忘れて、そう呟いてしまいました。

 そして、崩壊が更に進んでその半分以上を塵にして、風に吹かれて飛んでいき、先ほどの声の主が、やっと見えました。


 銀色の腰までかかる髪の毛、それに対応したような銀色の瞳。幼さを感じる可愛らしい顔立ち。

 闇色のコートから覗く肌は白磁みたいに白くて、少し力を入れると壊れてしまいそうです。

 ただ異色なのは、頭に生えている狐耳と尻尾。それらを見ると、魔族の一種である『狐人』と言う単語が頭に浮かびました。


 魔族とは人族の敵で、出会ったら逃げるか殺すかしなければならない相手と教わっていました。

 なのですが。


 ……美しい。


 そんな理屈を超えて、私は彼女にそう感じていました。


「ありがとう、ございます……?」


 固まってしまっていた喉に叱咤して、やっと出た言葉がそれでした。

 人族、と言うよりは王国民として、魔族に感謝するなど、見つかれば打ち首ものです。

 しかし私には、彼女が小さい頃に教わったような、暴悪な存在だとは思えませんでした。


 彼女は気配を穏やかなものに変えて、鈴のような声音で言いました。


「そうか。良かった、間に合って」


 オーガを一瞬で倒した者とは思えない、まるで聖女のような笑顔をする狐人の幼女。


 それが私、リリスと、彼女、エンマとの出会いでした。

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